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宇宙飛行士と歯の話 ~その2~ —宇宙で歯磨きをすると・・—

2005年11月21日

宇宙における最大の楽しみの一つは、何と言っても食事の時間。(図1)
 
 
図1

 
 
一緒に食事をしながら歓談の場となる。
食事が終わったら、宇宙船内でも歯を磨く。
各宇宙飛行士の日用品セットの中に、歯磨き粉を付けた歯ブラシが用意されており、毎回取りかえる。
ところで宇宙では歯が磨きにくいらしい・・。(図2)
どうしてだろう?
 
 
図2

 
 
宇宙空間では地上で考えられないほど難しいことがある。
地球では引力が働いている。
しかし宇宙船の中では遠心力も働くため引力が打ち消され、無重量状態になる。
歯ブラシを動かせると、体も回ってしまうのだ。
これは作用・反作用の法則による。
ちょうどボートに乗って、他のボートを押すと自分も動くのと同じ。
宇宙飛行士自身が動かないように、体を固定しなければならない。
宇宙でも、歯ブラシを細かく動かせて磨くバス法が良いようだ。
それでは、電動歯ブラシはどうだろう?
元宇宙飛行士に電動歯ブラシを送り、感想を聞いた。
「これなら長時間磨ける」との答え。
しかし電気のコンセントの利用に制限があるらしい。
電動歯ブラシの利用には、まだしばらく時間がかかりそうだ。

他にも問題点がある。
歯磨きの後、上を向いてのガラガラうがいができない。
何故なのか?
まず無重量状態では,表面張力により水滴が丸くなったまま浮遊する。(図3)
 
 
図3

 
 
水は密閉された容器にいれておかないと、こぼれてあたり一面に漂い続ける。
最終的には、空気の流れのために天井に付着してしまう。
もし無重力状態で“ガラッ!”とウガイをすれば、その瞬間水が飛び散ってしまう。少量の水でも、器械に入れば誤動作の原因となる。無事地球に帰還できないかもしれない。
また浮遊している水玉が、鼻から肺に入れば溺れてしまう可能性もある。
水は、危険なものなのだ。
だから宇宙飛行士は、口を閉じて水分を漏らさないようにしなければならない。
このような理由から、ブクブクうがいしかできないのだ。
うがいの水は、そのままゴックンと飲み込む。
水を吐き出せないから、磨いた後そのまま飲み込んでもよい歯磨き剤が利用されている。
しかし中には、飲み込むことを嫌う者もいる。
その様な宇宙飛行士は、ティシュペーパーに吸わせてから捨てている。
 
 
図4

 
 
ところで無重量の状態になると、数日は宇宙飛行士の顔が丸くなり、浮腫(むく)んでいることがわかる。
これは体の水分である体液のバランスが崩れるからだ。
地上では、体液は重力の影響を受けて下半身に集まっている。
たとえば心臓は重力に逆らって血液を上半身に送り出す。
しかし無重量の世界では、その必要がない。
頭から足の先まで、同じ量の血液が分布する。
頭や胸部では、平均2リットルも体液が増加する。
そのため鼻が詰まるなどの不快症状に見舞われる。
脳の血管が腫れているのがわかると言う宇宙飛行士もいる。
それでは、歯はどの様な影響を受けるのだろう?
歯が浮いた感じがするそうだ。
気持ちが悪いので歯磨き後、指先でマッサージをする宇宙飛行士までいる。

宇宙では、歯を磨くことでも地上で考えられないことが起こるのだ。

 

写真提供:宇宙科学研究家の若居 亘先生
図1  宇宙での楽しみは食事後の歓談の時間。
図2  宇宙での歯磨きは難しいという
図3  無重力空間では,すべてのものが浮遊する
図4  フロスを使う宇宙飛行士