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動物園の動物達も高齢化【6】イノシシの牙を考える

2018年12月27日

本年の干支は、イノシシ年なのでその話題を一つ。

イノシシは、雑食動物である。
それは臼歯の形態を見れば一目瞭然だ。
(図1)

9割は植物性の物であり、吻と牙で地面を掘り起こし根や地下茎(イモ)を食べる。
イノシシと言えば、鋭い牙を思い浮かべる。
下顎の牙は、大きく発達し歯軸の向きも独特だ。
まず外側を向いた後、手前に大きく湾曲する。
(図2)

これで敵に、下からアッパーカットをくらわす。
牙の断面は三角形で切れ味が鋭く、深い裂傷を負わせる。
ちょうど人間の大腿部の高さにあたり、大腿動脈を傷つけると失血死を起こす。

ところで、歯科医師の立場から気になることがある。
大きな牙が、自由な顎運動の妨げにならないだろうか?
そもそも牙が発達するのは肉食動物だ。
牙は、獲物を捕るための道具とともに、威嚇の道具でもある。

さてこれはトラの頭骨である。
牙が大きく、下顎の側方運動は不可能だ。
側頭窩が深く側頭筋が発達し、獲物に咬みつく力も強いだろう。
(図3)

顎関節の形態からも、下顎は回転(蝶番)運動しかできない。

一方、草食動物は下顎の側方運動により草をすりつぶす。
そのため臼歯部咬合面は平坦だ。
下顎角が広いので、咬筋が発達していることわかる
そこで威嚇の道具として角を発達させる。
(図4)

次に雑食動物の頭骨を見る。
小型のサルでも牙を持つ。
しかし大きく発達していない。
臼歯部の形態から、肉食と草食動物の中間系であることがわかる。
(図5)

さてもう一度、イノシシの頭骨を見直した。
側頭筋より咬筋の方が発達している。
しかも咬合面は、植物食を中心とした歯の形態だ。
顎関節も自由な運動が可能である。

そこでやっと気がついた。
もしイノシシの牙が真っすぐであれば、下顎の側方運動は不可能だ。
(図6)

そこで牙の湾曲を変え、植物食の道を選んで進化したのだ。
おそらく、顎の側方運動に合わせ、上下の牙が擦れ合うのだろう。
だから硬い植物を食べつつ、威嚇の道具として牙を利用してきたのだ。

 前 岡山大学病院 小児歯科 講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
岡崎 好秀
http://leo.or.jp/Dr.okazaki/