2018年12月13日
アフリカゾウと言えば、長い鼻だけでなく大きな牙を思い浮かべる。
4メートルもの巨大な牙を持つオスもいる。
これで木の皮を剥いだり、木の根を掘り起こして食べる。
もちろん闘争の武器にもなる。
激しい闘争のため破折するのだろうか。
アフリカのゾウの保護区でも、牙が非対称のゾウが目につく。
(図1)
なかには、牙が大きく偏位したものまでいた。
(動画:中央のゾウ 右の牙の歯軸異常)
⇒ http://okazaki8020.sakura.ne.jp/cgi-bin/zoukiba2.mp4
きっと、脱臼の既往があるに違いない。
牙の外傷は、日本の動物園でもよく見られる。
(図2)
そんな目を持ちゾウを眺めると、違ったものが見えてくる。
さてゾウの牙は、一生伸び続ける。
頭骨の断面を見ると、無根歯である。
(図3)
根尖部の生活力の旺盛な歯髄により、象牙質が形成され牙が伸びるのだ。
動物園の獣医師に、牙の外傷について尋ねた。
軽度では露髄部からタケノコのような牙が生えることもあるらしい。
きっと感染が軽微な場合だろう。
しかも若年で、歯髄の生活力の旺盛なゾウと考えられる。
しかし高齢のゾウ、あるいは根元で破折し大きな露髄の場合はどうだろう・・。
仙台八木山動物園アフリカゾウ
⇒ https://blog.goo.ne.jp/lupin_13/e/ba82f8c2ffaeaa009923cec43acf65eb
根尖病巣による様々な弊害が出るかもしれぬ。
抜髄や感染根管治療などは不可能だし、そのために巨大なリーマーも必要だろう。
まして、お利口に処置を受けるとも思えないし、全身麻酔も難しい。
根尖部が生きていれば、感染部を除去し、生活歯髄切断法に準じた処置になるだろう。
歯科医師にとっては、気になるところである。
そう言えば、高齢トラの頭蓋骨を見せていただいたことがある。
(図4)
よく見ると、上顎左右の牙の根尖相当部の骨に差があった。
右側と比べ、左側の骨が膨隆し粗造になっていたのだ。
(図5)
不思議に思ってよく見ると、左側の牙が折れ、わずかに歯髄が露出している。
(図6)
ひょっとしたら・・と思いCTを撮影してみた。
やはり根尖部にあやしい像が見える。
(図7)
これだけの破折で、歯髄死を起こした可能性が否定できないのだ。
続く
前 岡山大学病院 小児歯科 講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
岡崎 好秀
⇒ http://leo.or.jp/Dr.okazaki/