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ふしぎ・ふしぎ 咀嚼と健康 ~その8~ ——サルの死因——

2004年11月01日

ある動物園での話。

獣医が動物舎を見廻っていると、サルが死亡していることを発見した。
どうして死んだのだろう?昨日まで元気だったのに?
当初獣医は、サルの死因がわからなかった。

 

画像1
死んだサル

 

1年後、そのサルの骨格標本を見て、その理由に気がついた。歯が原因で死んだのだ。
歯が原因で死に至ることがあるのだろうか?

 

画像2
サルの頭蓋骨1

 

さて病巣感染という言葉がある。
まずこれについて説明しょう。
むし歯が進行し、神経が死んだままの状態が続くと、歯の根の先に膿がたまる。これが血液を介して、体中にまわる。
この菌が、心臓につけば心内膜炎、腎臓につけば腎炎、関節につけばリウマチ等、さまざまな病気の原因になる。

話しを戻そう。

獣医が、サルの骨を観察していると後頭部に穴が開いていることに気がついた。また上顎の牙が折れむし歯になっていた。

 

画像3
サルの頭蓋骨2

 

どうしてこれで、歯が原因で死んだとわかったのだろう?
理由は、こうだ。
まずサルの牙は、鋭く尖り大きい。
牙が発達していることは、歯の根も長くて太い。
歯の根による膨らみは、眼の下の部分まで達している。
おそらくサルの牙の神経が死んで根の先に病巣があったのだろう。
歯の根の先から脳まで距離がないため、菌は脳に感染しやすい。
そして脳に炎症があった部分の骨が溶けて穴が開いたのだ。
これが獣医の診断だ。
サルの世界では歯が原因で命を失うことが多いらしい。

それではヒトでは、どうであろう?

小児科から原因不明の熱などが続くと、歯が原因の可能性もあるので紹介状を持って来られる。
歯の治療をすると、病気が治ることをよく経験する。
やはり歯が原因だったのだ。
それではむし歯は、どのくらい体に影響を与えているのだろう?
そこで、神経まで達したC3のむし歯と、血液中の白血球との関係について調査した。
乳歯にC3のむし歯がある子とない子では、むし歯がある子の方が白血球の数が500/ml多かった。

 

画像4
C3以上のむし歯と白血球数

 

白血球の数が多いことは、何らかの病原菌の感染があることが考えられる。
病原菌が体に進入すると、体の防御作用によって白血球を作りだす。このため白血球が増えるのだ。
つまり進行したむし歯は、体への持続的な感染源の原因となっていることがわかる。
たかがむし歯であっても体には、これだけ負担がかかっているのだ。

 

画像1:ある日、動物園のサルが死んでいた。獣医師は死因がわからなかった。
画像2:サルの牙が折れて、むし歯になっている。サルの牙は発達しており、歯の根も太く長い。そのため、眼の下のまで、根の部分の骨が膨れている。
画像3:サルの頭蓋骨。後頭部に穴が開いていることがわかる。
画像4:C3以上のむし歯と白血球数。C3のむし歯が3歯以上ある幼児方が白血球数は多い。