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ふしぎ・ふしぎ 咀嚼と健康 ~その7~ ——競走馬にまつわる歯のヒミツ——

2004年10月04日

“馬齢(ばれい)を重ねる”という言葉がある。
“無為に年を取る”という意味である。
この言葉の語源について詳しくは知らない。
しかし馬齢の“齢”は“よわい”という字。
馬と齢は、どのように関わっているのだろうか?
一般に草食動物は、他の動物と比べ歯の減りが激しい。
1年の間に約2ミリも歯が擦り減る。
だからウマの齢は、歯の状態から推定できるのだ。
 
 
さて競走馬にまつわる歯の話題は数多い。
ウマ好きの方ならご存知だろうが、4歳馬と言えば競走馬にとって生涯一度のチャンス。
なにしろ皐月賞・ダービー・菊花賞などの大レ-スが控えている。
たった2・3分の間に、もてるパワーを爆発させる。
最高の状態で晴れ舞台に立てるよう、ちょっとした体調の変化も見逃せない。

ところでこの頃、歯の萌え代わりの時期である。
調教師は、食欲が落ちると、まず歯を診る。
萌え代わりで痛ければエサを食べない。
“歯がわりに当たって体調を崩した”と言われるほど、食べられずに勝利を逸したケースは多いのだ。

また歯の擦り減り方が不均一だと、鋭利な部分で粘膜を傷つける。
これもまた食欲に影響するる。
そこで獣医に依頼し歯にヤスリをかけ、噛み合わせを調整する。
ウマも定期的に歯のチェックをしているのだ。

 

図1
馬の歯を研ぐヤスリ
 
 
ここで調教師から聞いたウマの見分け方を披露しよう。

まず前歯を見る。
ウマは前歯で短い草を引き抜いて食べるため、先どうしが当たっているのが良いという。
この様な噛み合わせをしているウマが、食欲旺盛だと言う。

 

図2
切端咬合の馬は食欲旺盛

 

次にアゴの張ったウマが良い。
アゴが発達していることは、歯がよくて何でも噛んで健康とされている。
軟らかい食物の影響で細くなった現代人とは大違いだ。

そもそもウマは、1日16時間食べ続けるなかで進化してきた動物だ。
草はエネルギー効率が悪い。
だから普通の食事では、体を維持するのに精一杯なのだ。
これではとても走れない。

そこで競走馬に、高カロリーで消化しやすい配合飼料を与える。
なるほど!それなら走れる!と思われるだろうが、それでも問題が残る。
ウマにとっては、栄養面より食べることにあてる時間が大事なのだ。
小さな固形試料を短時間で食べても満足しない。
食べ終えても、他のウマが食べ続けていると、ストレスを感じるらしい。
イライラして、調教どころではなくなるのだ。

 

図3
小さな固形飼料ではストレスがたまる

 

さあ困った。

そこで、飼い葉桶の中に大きな石ころを入れたり、サカナの網にエサを入れて与える。
食べにくくさせることで、ゆっくり食事を楽しむことができる。
ウマもゆっくり噛むことで満足するのだ。
忙しい現代社会、ウマに見習うべきことがたくさんありそうだ。

 

図4
網に餌を入れ食べにくくして与える
 
 
図1:馬の歯を研ぐヤスリ
図2:切端咬合の馬は食欲旺盛
図3:小さな固形飼料ではストレスがたまる
図4:網に餌を入れ食べにくくして与える