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ふしぎ・ふしぎ 咀嚼と健康 ~その6~ ——鳥のクチバシ考——

2004年09月21日

大空を自由に翔(かけ)めぐる鳥を見て、憧れを感じない人はいないだろう。

さて鳥は、は虫類や恐竜から進化したとされている。早く走る足を備えた恐竜が、空中を飛ぶ昆虫を追いかける間に、手が翼に変化したという説。
高い木から地上に舞い降りるためのパラシュート(皮膜)が、翼に変化したという説もある。どちらの説が正しいか、現在のところわかっていない。
いずれにせよ鳥は、翼を得て大空を支配した。

一方、空を飛ぶために失ったものもある。体が軽くなければ飛ぶことはできない。

たとえば、骨。含気骨(がんきこつ)と呼ばれる骨は、中が空気で充たされているので驚くほど軽い。グンカンドリの場合、体重が二キログラム、翼を広げると二メ―トルにもおよぶ大きな鳥であるが、骨の重量はわずか百グラムしかない。

 

写真1
軽い鳥の骨

 

失ったものには、もう一つある。それは歯だ。
鳥の祖先である始祖鳥や翼竜(よくりゅう)の化石には歯が存在する。
より遠くまで飛ぶために歯は不用である。代わりに鳥は、内臓に砂嚢(さのう)を持ち、砂を利用して食物を砕く。焼き鳥屋用語では、砂肝(すなぎも)・砂ズリと呼ばれる部分である。

 

写真2
化石

 

また鳥は、獲物を捕らえるために“くちびる”を“クチバシ”に進化させ、獲物を捕らえる道具として形を分化させた。

例えばキツツキは、クチバシで木に穴をあけ中の昆虫を食べる。
ミヤコドリは、クチバシを差し込み貝のフタをこじ開ける。

カラスもクチバシの太さによって分けられ、獲物も異なる。

大都会に住み、ゴミをあさるカラスはハシブトカラス、名前の通りクチバシが太い。太いクチバシで、ゴミ袋を引き裂いて残飯をあさる。一方、スマートなクチバシを持つハシボソカラスは、森に住みネズミや昆虫を丸飲みする。

 

写真3               写真4
ハシブトカラス ハシボソカラス

 

そう言えば、この両者鳴き声で見分けることもできる。

ハシブトラスは、歌の音階で言えばテノールで“カアー カアー”と鳴く。
ハシボソカラスは、“グアー グアー”とバスの音階で鳴く。“天は二物を与えず”とはよく言ったものだ。

このようにクチバシは、鳥が生きていく上で重要な器官である。

ところが飼育している鳥は、クチバシを失うことがある。飛ぶとき、あやまって檻にクチバシが当たり折れてしまうのだ。鳥にとっては命にかかわる大問題である。

面白い話がある。

ある動物園でコウノトリがクチバシを折ってしまった。エサである魚を獲ることができないばかりでなく、クチバシを閉じなければ飲み込むこともできない。このままでは、鳥の命が危うい。

 

写真5
クチバシの折れたコウノトリ

 

飼育係は、サカナを手で喉の奥に入れ、やっとのことで飲み込ませたという。

しかし、この鳥のために、毎回飼育係の手を煩わせることはできない。
どうすれば、鳥が自力で食べられるようになるのだろう?
そうだ!人工のクチバシを作ってやればよい。

獣医達は、歯科用の印象材(いんしょうざい)で、鳥のクチバシの型を採った。

しかし、鳥のクチバシは非常に軽い。重い材料では鳥も嫌がるだろうし、口を閉じることができない。

試行錯誤の結果、歯科材料を駆使し、ついに軽量プラスチックのクチバシを完成させた。クチバシは、鳥の鼻の穴を利用して固定した。

おかげでこの鳥、エサを食べることができるようになり、現在も元気に生活を送っている。

 

写真6

 

写真1:鳥の骨は、小さなサルの頭の骨より軽い。
写真2:始祖鳥の化石には、歯が存在する。
写真3:ハシブトカラス
写真4:ハシボソカラス
写真5:クチバシの折れたコウノトリ
写真6:軽量のクチバシを入れ、エサを食べることができるようになった。