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ふしぎ・ふしぎ 咀嚼と健康 ~その5~ ——左ヒラメに右カレイ——

2004年09月06日

“左ヒラメに右カレイ”とは、ヒラメとカレイの見分け方であることは有名だ。両者ともカレイ目に属し、腹を手前に置いて左に顔があるのがヒラメ、右にあるのがカレイである。

 

図1
ヒラメ

図2
カレイ

 

ところがカレイの仲間でも、左に顔があるものもいるから話しはややこしい。ヌマガレイがそうだ。さらに面白いことにこのカレイ、アメリカ西海岸では左に顔のあるものが50%、ところがアラスカ沖では70%、それが日本では100%となるのである。

“左ヒラメ”に“右カレイ”は、万国共通ではないのだ。

それではヒラメとカレイを見分けるには、どうすればよいか?
実は、両者の顔を見ればわかるのだ。ヒラメは、口が裂け怖い顔をしている。
一方、カレイはおちょぼ口でやさしい顔である。

もう一つの大きな違い。それは歯である。ヒラメの歯は大きく尖っている。
しかしカレイの歯は小さい。

 

図3
ヒラメの顎骨

図4
カレイの顎骨

 

これらの差は、両者のエサの違いに起因している。ヒラメは、イワシやアジを食べる。そのためには大きくて強い歯が必要だ。また肉食だからどう猛な顔になる。

それに対してカレイは、イワムシやゴカイを食べている。だから歯も小さくてすむ。

それぞれの食べ物の差が、歯の違いであり顔の違いとなって現れる。ちなみに、ヒラメのことを瀬戸内沿岸では“おおくち”と呼び、東北日本海沿岸ではカレイを“くちぼそ”と呼ぶ。

 
さてヒラメは、白身の高級魚として鯛と並び称され、刺身やお寿司のネタとなっている。しかし江戸時代には、カレイの方が美味で高級魚とされていた。

それでは何故、現在はヒラメのほうが高級魚なのだろう?その秘密も顔の向きにある。

日本料理の基本。それは料理を出すとき、頭を左に向ける。これが高級魚とされている理由の一つだ。そこでカレイを出すときには、「のし」を付けたり、裏返しにして目の位置に赤いナンテンの実を添えて無礼をわびる。
 
 
サカナにまつわる歯の話は、まだまだ多い。

釣りの時“引きの強いサカナほど口元がおいしい。”と言われる。たとえばイシダイ。サザエの殻でも音を立てて噛み砕く。これは歯が丈夫なだけではなく、咬む筋肉も発達しているためである。よく使う筋肉は、引き締まっているから美味しい。

また夏の京料理の代表“ハモ”。これもずばり“歯”から来ている。ハモも歯が鋭く、頭を切り落としても、咬みついてくるからだ。

逆に歯が弱いことから名づけられたサカナもある。サバは“小(サ)さい歯”から来ている。それにイワシは弱い魚(鰯)と書く。イワシは、口が弱いから当たりがあったらゆっくりリールを巻かないと顎が外れてしまう。
 
 
こんな話、鮨屋でしてみてはいかがだろう。
 
 

図1  :ヒラメは、肉食のため獰猛な顔をし、口も裂けている。
図2  :カレイは、虫を食べるためおちょぼ口である。
図3&4:食性の違いにより、ヒラメの歯は大きく尖り、カレイの歯は小さい。ヒラメとカレイは、歯からも見分けることができるのだ。