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ふしぎ・ふしぎ 咀嚼と健康 ~その4~ ——牛タンがおいしいワケ——

2004年08月17日

現在、生活習慣病の予防のために、食物繊維がクローズアップされている。

たとえば大腸ガンの急増の背景には、食事の西洋化に伴なう食物繊維の摂取量の減少がある。食物繊維が多く含まれる野菜をたべることは、便通を促すことで便秘の予防にもつながるからだ。

野菜が健康に良い理由。
それは、ヒトは食物繊維を消化できないことにある。

さて、それでは食物繊維を消化できる動物には、どんなものがいるだろう?

まずウシやウマの草食動物だ。

草食動物の代表格であるウシは、硬い草(セルロース)を食べ消化吸収する。
草は、ほとんどタンパク質を含んでいないのに、どうして多量の乳を出すことができるのか不思議である。

このヒミツ、ウシはガムを噛んでいるかのように、常に口をモグモグさせていることにある。

実は、ウシは四つの胃を持っている。なかでも最初の胃が重要な役割をしている。ウシは、草を飲み込み最初の胃(第1胃)に入った後、また口に戻して噛みなおしをする。口に戻しては噛み、唾液と混ぜ合わせられ、また飲み込む。これを反芻(はんすう)と呼ぶ。

なかでも第1胃は、たくさんの微生物が住んでいる巨大なタンク。大きさは家庭の風呂釜位ある。巨大なタンクをかき混ぜるため胃の周りは厚い筋肉で囲まれている。

余談であるが、焼肉屋で出される“ミノ”の部分。これは胃の筋肉だ。だから歯ごたえがあっておいしい。ちなみに第2胃は“ハチノス”第3位は“センマイ”と呼ばれる部分だ。
 
 
さて胃の中で繊維は、第1胃や第2胃を行きつ戻りつ、唾液や微生物と一緒に混ぜ合わせられる中で、醗酵し分解する。そして第3胃と通り第4胃にたどり着く。第4胃はヒトと同じ“胃”で、消化酵素が分泌され、エネルギーや体を構成するタンパク質として吸収される。

このように反芻をする動物は、草食動物の偶蹄類(ぐうているい)に多い。

ヒツジやヤギ、ラクダにキリンなども同じ仲間で、噛み戻しを行なう。
偶蹄類は蹄(ひずめ)の数が、偶数であることから分類されるのだ。

それでは、ウマはどうだろう?ウマは、ロバやサイと同じ奇蹄類(きているい)に属している。やはり蹄(ひずめ)数が、奇数であることから分けられる。胃の代わりに盲腸が発達しており、ここが醗酵タンクとなり消化吸収が行なわれる。
 
 
ところで、同じ草食動物であるウマとウシでも草の好みが異なるのをご存知だろうか?

ウマは短い草を好んで食べる。一方、ウシは長い方を好む。実はこの差。
歯の違いでもある。

 

図1

図2

 

両方とも草食動物であるから、奥歯である臼歯は発達している。ところが前歯が違うのだ。

ウマは上下の前歯が、ちょうど毛抜きのように歯の先どおしが当たっている。
この歯で短い草を抜いて食べる。ところがウシには下の前歯はあるが、上の前歯はない。歯の代わりに歯板(しばん)という硬い骨があるだけだ。
だから短い草を引き抜くことができない。

 

図3

図4

 

しかし神様は、ウシに前歯の代わりになるものを与えた。それは長くてよく動く舌だ。ウシは、長い舌で草を巻きつける。そして下の前歯が“包丁”、上の歯板が“まな板”の役割をさせ草を切り、臼歯で噛む寸法だ。

 

図5

 

そう言えば、焼肉を食べに行った時。馬(ば)タンがないのに、牛タンは美味しい。やはりウシの舌は、よく動くので美味しいのだろうか。
 
 

図1:ウマは短い草を好む。
図2:一方、ウシは長い草を好む。
図3:ウマは、前歯の先同士があたり、ちょうど毛抜きのように短い草を引き抜く。
図4:ウシの仲間には、上の前歯が存在しない。歯の代わりに歯板がある。下の前歯が“包丁”、上の歯板が“まな板”の役割をさせて草を食べる。(写真は,ヒツジの歯板)
図5:ウシの舌。二の腕と比べるといかに大きいかがわかる(モンゴルにて撮影)