MAIL MAGAZINE メールマガジン

ふしぎ・ふしぎ 咀嚼と健康 ~その3~ ——天然アユと養殖アユ——

2004年08月02日

夏の味覚の一つにアユがある。

アユは中国では“香魚”と呼ばれ,甘いスイカのような香がする。春先に海から川を遡り、清流で“なわばり”を作る。
“なわばり”を持つことで、豊富な食料にありつけ成長も早い。他のアユが侵入すると、体当たりして追い払う。この習性を利用したのがアユの友釣りだ。

さてアユは、川底の石に付いた苔を“ヤスリ状の歯”で、こそげ取るようにして食べる。
この食べ方を“はむ”と言い、石に残された傷を“はみあと”と呼ぶ。
“はむ”の言葉は、“歯”に由来している。

アユ釣りの人達は、この傷跡を見てアユの存在を知るという。(図1・2)

 

図1

図2

 

ところで、おいしくて香ばしい天然アユの見分け方をご存知だろうか?
天然アユと養殖アユでは、顔つきが違う。養殖アユは、丸くやさしい顔つきをしており、泳ぎも鈍い。早く大きくするためにヒトがエサを与えるので、生存競争がないからだ。

一方、天然のアユは口がとがり、細くひきしまった体型をしている。苔を“はむ”ためには、口元がとがった方が有利なのだ。(図3)

 

図3

 

ヒトが与えるエサによって、動物の顔かたちは変化する。

他の例をあげてみよう。たとえばイノシシとブタ。イノシシは、牙や鼻を利用して食物を手に入れる。嗅覚も鋭い。とがった口吻と牙でイモを掘り、カエルやミミズを捕まえる。

また牙は外敵から身を守る道具でもある。性格も攻撃的だ。

一方、ブタはイノシシ科に属する。中国では十二支のイノシシは、ブタとなっている。ブタは、肉を取るため野生のイノシシを飼い慣らしたものである。

かつて、弥生時代の人々は、家畜を飼育していないとされてきた。しかし、現在、イノシシと思われてきたものが、実はブタの骨であるということがわかってきた。

 

もう一つ異なる点がある。

イノシシに比べブタの口吻は、丸く短い。これは嗅覚と密接に関係する。獲物を捕るためには嗅覚が重要だ。そのためには、鼻(鼻腔)の容積が大きいほうが有利となる。

イヌでは、ヒトの10万倍から1,000万倍発達している。

しかしヒトによってエサを与えられ続けると、嗅覚を発達させる必要性も薄れる。だから鼻の容積が減り、顔が丸くなるのだ。

そう言えば、ペットの小型犬も鼻が低い。ペキニーズやマルチーズの顔が思い浮かぶ。これもヒトがエサを与える影響だろう。

弥生ブタも歯周病に侵されていた。現代でもほとんどのペットは、歯周病に悩まされている。おかげでペット用の歯ブラシ・歯磨き粉が売れている。

子ども達にも食物の与え過ぎには、気をつけた方が良さそうだ。