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なるほど ザ保健指導&健康教育【2】専門家の陥りやすいワナ

2017年03月21日

友人のある新聞記者の弁。

「歯科医師会から”歯周病と糖尿病の関係”について講演会があるから、是非取材に来て一般の方々に広めて欲しいなどと依頼されるのですが、実は困ることがありまして・・・。」

そこで、その理由を聞いた。

すると

「極めて大切なことで記事にしたいのですが、専門用語を頻繁に使われるので、私自身が理解できないのです。読者がわかるように書かないと伝わりませんからね。」

なるほど!

そもそも、歯周病になるとインスリン抵抗性ができるのは、炎症性サイトカインの一つでTNF-αによるものだ。

インスリン抵抗性は、”インスリンが効きにくくなり血糖値が上がり糖尿病につながる”
と新聞に書けば、一般の方々も何とか理解できるだろう。

しかし、炎症性サイトカインやTNF-αの言葉は、どう表現すれば良いかわからない。

わからないと読み飛ばされるだけである。

ところで、原発の放射能漏れのテレビニュースに登場した専門家は、放射線量を”ベクレル”や”シーベルト”という単位で表現していた。

(図1)

恥ずかしい話だが、学生時代の放射線学では、”キュリー”や”レム”を使っていた。

放射線量の単位が変わったのを知らなかったので、最初はどんなレベルかまったくわからなかった。

しかし専門家は、”誰でも知っているだろう”という前提でこの用語を使っていた。

専門家は”伝えたつもり”であったが、少なくとも私には”伝わっていなかった”のである。

歯科医療従事者も、同じ過ちを犯していないか気になるところだ。

例えば、う蝕や歯周病の原因は”歯垢”である。

それでは、読者の方が”歯垢と言う言葉を覚えた”のは、あるいは”歯垢がどのようなものかを理解できた”のは、いつ頃だろうか?

さらに”歯垢と食べカスの違い”が理解できたのはどうだろうか?

(図2)

そんなことを考えると、小学生ではまず無理だ。

中学生、いや高校生でも自信がない。

“歯垢”の言葉を使うと、大人は理解できずとも、わかったような顔をして聞いている。

しかし子どもは、そうはいかない。

当然のように教室がザワつく。

子どもにとって、わかりやすい話し方が必要だ。

そう言えば、テレビで大ブレイクしている池上 彰氏は、
長年”週間子どもニュース”(NHK)を担当して来られた。

番組では、子どもでもわかるように話してきたことが、大人にも通じブレイクしている理由だとおっしゃる。
(伝える力PHPビジネス新書より)

(図3)

どんな集団に対しても、わかりやすい話を心がけることは、極めて重要であることがわかる。

地域や学校では専門用語を噛み砕き、一般の方々や子ども達が理解しやすいように伝えなければならない。

“伝える力を磨く”のも歯科医療従事者の仕事なのである。

前 岡山大学病院 小児歯科 講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
岡崎 好秀
http://leo.or.jp/Dr.okazaki/