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角と牙

2011年11月07日

奈良の秋の伝統行事といえば、天然記念物である鹿の角切りがある。江戸時代の初期より300年以上受け継がれてきた。
角は、オスのシンボルである。
(注:ニホンジカ)
喧嘩は、まず角をお互いに見せつける。
決着がつかないとそれで攻撃する。

さてこの角、乳歯のように生え代わる。
骨の上に角質のサヤで被われているだけなのだ。
生まれた時にはまだないが、次の年にはゴボウのような角が生えてくる。
まるで袋に被われたようで血が通い柔らかい。

(図1 袋角)

血液がカルシウムを送り、植物のように伸びて行く。
秋には、覆っていた皮膚がはがれて角が完成する。
でもこの年、枝分かれはまだしていない。
そして春先には、ボロッと抜け落ち下から新しい角が生えてくる。
今度は、一つ枝分かれをした角である。
さらに次の春には、二つに分かれた角が生えるのだ。
こうして四つになったら終了となり、以後年ごとに太く長くなる。

さて鹿にとって、秋は繁殖のシーズンだ。
当然、気が荒くなり人にも危害を及ぼす可能性がある。
そこで、角切りが行われている。
のこぎりを引いても血が通っていないので痛くはない。

ちなみにこの角を枝角と呼び、英語では“アントラー”という。
そう!サッカーチーム“アントラーズ”はここに由来する。
公園にある春日大社の神様は、はるばる茨城の鹿島神宮から鹿に乗ってやってきた。
だから公園の鹿は、神の使いとして大切にされているのだ。

さて、奈良公園は広大な敷地をもつが、いつ訪れても芝がきれいで心地よい。
さぞ多くの人々の手が入っていると思いきや、どうもそうではないらしい。
芝刈り機一つないと言う。
実は、1,100頭の鹿が、芝を刈っているのだ。
へえ~!と驚くのはまだ早い。
これだけ鹿がいれば、年間の糞は300トンにも達する。

でも大丈夫。
ここは、世界的にもフンコロガシの種類が多いことで有名なのだ。
ファーブル昆虫記に出てくるスカラベ(コガネムシの仲間)が処理をしてくれる。
糞を転がして球状にし、地中に埋めて食料にする。
さらにその糞が肥糧となり、芝を育てるのだ。
もし、景観を保つため人を雇うと、年間10億円もの人件費がかかるという。
10億円を鹿の数で割ると、1頭あたり年間90万円の仕事をしていることになる。

さてトナカイは、オスもメスも角を持つ。
雪の下からエサを掘り出すために必要なのだ。
大きな角をもつオスは、真っ先に食物にありつくことができる。
しかし冬に角が落ちると、威張っていたオスが一気に順位を落とす。
そして角のあるメスが食べ物にありつく事ができる。
かくして食物の少ない時期、妊娠したメスは出産のための栄養を補給する。

さて、一般的に角のある動物は牙がなく、牙のある動物には角がない。

(図2 フランス自然史博物館)

持っているとしたら、どこかの奥方だけだ。
鹿の角は、肉食動物の牙と同じ意味を持つことがわかる。

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