2016年05月16日
小児の診療では、一度痛みを与え泣かせてしまうと後の治療が困難となる。
そこで、乳歯う蝕の慢性化を促すため、前処置としてう窩のフリーエナメルを除去し、唾液の交通を良くする。
また、水で10倍希釈したサフォライドをう窩に塗布する。
そして光重合の照射機で光を当てると銀の沈着が促される。※注1
さらには、う窩の中を小さな歯ブラシで磨く。
こうすると、より早く慢性化させることができる。
では唾液の交通を良くすると、どうして慢性化が促されるのか細菌学の分野から考えてみよう。
さてう蝕原性菌には、ミュータンス連鎖球菌と乳酸桿菌がある。
ミュータンス連鎖球菌は、ショ糖を栄養源として不溶性グルカンを作り歯面に付着する。
また同時に、酸を産成するためう蝕の初発と関係する。
一方、乳酸桿菌は歯面への付着能がないためう窩にしか住めない。
う窩の中で酸を出し続けう蝕を進行させる。
乳酸桿菌数が、治療後に減少するのは、う窩が封鎖されるためである。
付着能がないため乳酸桿菌は、住む場所がなくなるのだ。
また唾液の交通が良いと、う窩の乳酸桿菌の一部が流出する。
これが、う蝕の進行を抑制させる。
もちろん同時に、唾液の緩衝作用によりう窩のpHも高くなる。
なにせ唾液は、水より1万倍も緩衝作用が強いのである。
こうして唾液は、う蝕の進行を抑制しつつ第2象牙質の形成を促す。
そう言えば、う窩が形成される前段階の白斑。
ていねいに歯を磨いていれば消失するという。
唾液カルシウムによる再石灰化によるものである。
これも、唾液によるう蝕治療の一つと言える。
唾液を味方にすることは、日常臨床をより楽にすることにつながる。
※注1 岡崎好秀:子どもを泣かさないための17の裏ワザ、クインテッセンス出版、2014.
前 岡山大学病院 小児歯科 講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
岡崎 好秀
⇒ http://leo.or.jp/Dr.okazaki/