2016年06月06日
母乳は、乳児にとって免疫学的、栄養学的など生物学的な面から重要だ。
中でも人間においては、母子の絆など精神発達とも深く関係する。
そこで母乳育児が推奨されている。
しかし、乳歯萌出後も飲み続けるとう蝕のリスクが高まる。
低年齢児では、まず上顎乳前歯に初発する。
すると瞬く間に臼歯部に波及し、その処置は困難を極める。
母乳育児をしながら、低年齢児のう蝕を防ぐはないものか?
さて母乳がう蝕になりやすい理由。
それは欲しがる時に飲む習慣が、間食の不規則性につながるという。
十分考えられることである。
ところで乳前歯のう蝕は、唇側面の歯垢が付着した部分にできる。
しかし、よく観察すると口蓋側に初発していることがある。
また不思議なことに、歯垢が付着していないのだ。
保護者に尋ねても、砂糖を含む菓子類を与えたことがないと言う。
歯垢の付着があれば、“ミュ-タンス菌が砂糖を分解してできたう蝕”である。
このようなケース。
筆者は“う蝕”ではなく“酸蝕症”を疑っている。
すなわち、歯垢の関与なしで、脱灰が起こっていると思われる。
その理由について述べてみよう。
さて、乳酸菌は母乳に含まれる乳糖が大好きだ。
従って母乳を飲めば、腸管内の乳酸菌が増える。
この菌が出す酸によって、他の雑菌に抑制がかかる。
それが、免疫系を刺激して健康に影響する。
ところで腸管内に乳酸菌が増えれば、口腔内も同じだろう。
実際、授乳期間中は口腔内の乳酸菌も増える。
しかも、眠っている間は唾液が出ないので、極端に唾液緩衝能が低下する。
母乳を飲みながら眠ってしまうと、舌と乳前歯の口蓋側との間は母乳で満たされる。
これを利用して乳酸菌が多量の酸を出す。
そこで口蓋側だけが脱灰される。
だから歯垢がなくても、局所的な“酸蝕症”が起こっているのではなかろうか?
しかし、乳児が眠りにつくと、起こして歯を磨くのはたいへんだ。
母親自身も、そのまま眠ってしまいたい。
さてさて、この様な状況下でどのように予防すれば良いのだろう?
続く
前 岡山大学病院 小児歯科 講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
岡崎 好秀
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