2016年05月02日
これは、3歳まで噛んで食べることのできなかった障害児である。
う蝕が多発していたので処置を行った。
歯を磨いた後でも、唾液の粘調性が高く糸を引いている。
この状態では、二次う蝕の発生が予測される。
また、永久歯でも同じことが繰り返される可能性が高い。
さて筆者は、唾液の粘調度が高いことが、う蝕の発生につながると考えていた。
しかし本当は、サラサラした漿液性唾液が不足し、そう見えたのではないだろうか。
すなわち、噛めないことが唾液腺の発達に影響したと思われる。
これまで述べてきたように、漿液性(刺激)唾液は粘液性(安静時)唾液より緩衝能が20~30倍も高い。
・・・だとすれば、よく噛んで漿液性の唾液腺の発達を促すことが、う蝕予防のために重要であることがわかる。
ところで、唾液流出量は乳酸桿菌やカンジダ菌量と逆比例する。
その理由は、これらの菌が歯面への付着性を持たないためである。
すなわち唾液は、これらの菌を洗い流しているのだ。
唾液流出量が少ないと細菌は、口腔内に停滞した糖類を利用する。
そして菌が増殖するとともに、さまざまな有害物質を作り出す。
唾液流出量が増えると、口臭などが減るのはこのためである。
ところで筆者は、唾液を上手く利用することで、対応の難しい小児のう蝕処置をより楽に行えるように工夫している。
乳歯のジュクジュクした軟化象牙質は、除去時に露髄の危険を伴う。
また最初に痛みを与えてしまうと、以後の処置が困難となる。
一方、硬い二次象牙質が形成された慢性う蝕は、除去が楽であると同時に疼痛も少ない。
乳歯のう蝕を慢性化させてから処置を行うという発想である。
臨床的に慢性う蝕は、唾液の流れの良い部位に多い。
そこで、前処置としてう窩のフリーエナメルを除去し、唾液の交通を良くしておく。
もちろん、後の修復処置が困難にならない、そして食片圧入による疼痛が起こらない程度に・・・である。
続く
前 岡山大学病院 小児歯科 講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
岡崎 好秀
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