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舌と口蓋 その【5】切歯骨の成長不全と叢生

2015年05月28日

ヒトの上顎骨は、口蓋の前方の切歯骨(一次口蓋)と後方の上顎骨(口蓋突起)が癒合したものである。

そして前者から前歯が、後者からは犬歯や臼歯が萌出する。

すなわち乳前歯も永久前歯も、切歯骨から萌出ことになる。
(図1)
スライド1

さて口蓋の成長について調べていると、興味深い研究があった。(注1)

“切歯縫合より前方の口蓋(切歯骨)の成長は、永久前歯の萌出前にほぼ終了する。
また、切歯縫合より後方の口蓋の成長は、大臼歯の萌出に伴う歯槽突起の後方で著しい”

と述べられていた。

つまり大臼歯部の萌出スペースは、口蓋の後方部に骨が添加することで得られる。
(図2)
スライド2

しかし、前歯部が萌出する切歯骨は、乳歯から永久歯の交換期に成長が止まり、以後は大きくならないのだ。

ちなみに上顎乳歯の前歯の歯冠近遠心幅径の総和は24.3mm 、永久前歯では31.96mmである。

この差は、7.66mmにも達する(男児)。(注2)

すなわち乳前歯から永久前歯へ交換する前に、これだけ切歯骨が大きくならなければ、萌出スペースが確保できないことになる。

しかし、そこまで大きくなるとは思えない。

それでは、どうしてきれいに並ぶのか?

そんな疑問を持って、頭蓋骨を並べ見比べた。

上顎前歯部に注目していただきたい。

まず1歳6か月頃の標本では、乳前歯は直立している。

そして乳歯列の完成期では、歯槽部に骨が添加し前方に成長している。

ここでも、乳前歯は直立している。

しかし永久歯列では、前歯部の歯軸が唇側に傾斜している。

傾斜することで萌出スペースを確保していることがわかる。
(図3)
スライド3

しかし、あくまでこれは正常歯列での話である。

さて筆者は、切歯骨の成長不全が、永久前歯の捻転や叢生を引き起こしていると考えている。

例えば、乳前歯に空隙があると、永久前歯はきれいに並ぶ。

これは切歯骨が十分発達している証拠である。

しかし、乳前歯の閉鎖型歯列弓では、永久前歯が叢生となる。

閉鎖型の歯列弓は、切歯骨の成長不全ではなかろうか。
(図4)
スライド4

そのためにも永久前歯の萌出前に、切歯骨を十分発達させておく必要があると思う。

それでは切歯骨を発達させるには、どんなことが考えられるだろう?

続く

注1:
書籍タイトル:頭蓋における口蓋の成長変化について(Jpn.J.Oral Biol.,30:156-163,1988.)
著者:祐川 励起、山道 祥郎、久米田 哲、佐藤 功二、西山 和彦、池野谷 達雄
歯科基礎医学会雑誌
https://www.jstage.jst.go.jp/article/joralbiosci1965/30/2/30_2_156/_pdf

注2:
書籍タイトル:乳歯および永久歯の歯冠近遠心幅径と各歯列内におけるその相関について(27:221-234,1960.)
著者:小野 博志
口腔病学会雑誌
https://www.jstage.jst.go.jp/article/koubyou1952/27/3/27_3_221/_pdf

前 岡山大学病院 小児歯科 講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
岡崎 好秀
⇒ http://leo.or.jp/Dr.okazaki/