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舌と口蓋 その【4】前顎骨と切歯骨

2015年05月19日

ヒトの頭蓋骨に各骨の名称を入れてみた。

(図1)
スライド1
同様にクマの頭蓋骨にも入れようとしたが、骨が一つ多い。

上顎前歯部から鼻腔の外側にかけての骨である。
(図2)
スライド2

そこでクマの頭蓋骨を咬合面から見た。

この骨より前歯部が萌出し、口蓋の前方部を占めていることがわかる。
(図3)
スライド3

後方には、上顎骨が位置する。

さて、この骨は“前顎骨”と呼ばれている。

ウマなど顔の長い哺乳類の骨を見ているとよくわかる。

しかしヒトでは、短頭化にともない消失するのだ。

ここまで来ると賢明な読者は、気がつかれたかと思う。

この骨こそ、ヒトの一次口蓋の名残であり、いわゆる“切歯骨”である。

ところでこの骨。

かの有名なドイツの詩人ゲーテが発見したので、別名“ゲーテ骨”とも呼ばれている。

元々、ヒトには切歯骨がないとされてきた。

それは、成人では切歯骨と上顎骨が癒合し、一体化するためである。

しかしゲーテは、若い人の骨には両者の間に縫合があることを見つけたのだ。

ゲーテが活躍した頃、ヒトは他の哺乳類とは違った生き物だと考えられていた。

しかし、この発見によってヒトも哺乳類の一員であることがわかった。

ところで、この切歯縫合は30歳頃に癒合する。

そのため法歯学では、年齢の推定にも利用されるという。

せっかくなので、乳歯列期と成人の口蓋を比較してみる。

乳歯列期の骨には、切歯骨の存在がよくわかる。

一方成人では、癒合し一体化している。
(図4)
スライド4

そう言えば、ゾウの牙は犬歯ではなく、側切歯が伸びたものだと言われる。

「なぜ側切歯なのか?」 とかねがね疑問だった。

しかし”牙”と思っていた歯が、切歯骨から萌出しているから“側切歯”だと考えると合点がいく。
(図5)
スライド5

さて、切歯骨から前歯が萌出する。

そして上顎骨から犬歯や臼歯が萌出する。

さらに両者の骨は、年齢と共に癒合する。

これが永久前歯の萌出に、影響を与える因子はないだろうか?

続く

前 岡山大学病院 小児歯科 講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
岡崎 好秀
⇒ http://leo.or.jp/Dr.okazaki/