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モンゴルにおける小児う蝕と歯学教育 その【4】

2014年05月30日

モンゴルの歯学生に乳歯う蝕の洪水の解決策は、う蝕治療に引き続き定期健診による予防管理が必要であると述べた。

それでは、どうすれば定期健診に訪れてくれるのか?

一つは、歯に対する価値観を高めること。

もう一つは、術者と子ども達の人間関係であるように思う。

いくら歯の価値観が高くても、診療に行く度に嫌な思いをすれば足は遠のく。

初診から治療終了時までに築かれた信頼関係により、定期健診の受診率は大きく異なるだろう。

「大人は、心が開かずとも口は開ける。しかし子どもは、心が開かないと口は開けてくれない。」のである。

そんな話をすると、また歯学生が笑う。
(図1)
20140530_1

ある調査によると、我が国における歯科恐怖症の患者は、全人口の約15%もいるという。

治療が怖くて歯科医院に行けない、痛みがある時にのみ行くという方々である。

これらの多くが、小児期の歯科治療の嫌な経験に基づいている。

さて歯科医療のスキルには2つある。

テクニカル スキルとコミュニケーション スキルである。

前者は、臨床教育の大半をしめる。

一方後者に費やされる時間は、ほんのわずかである。

しかし小児歯科学としての独自性は、この点にあると思う。

振り返ると筆者は、大学在籍中に後者の重要性について徹底的に叩き込まれた。

それを教えていただいたのは、岡山大学歯学部小児歯科 元教授 下野 勉先生である。

診療中に子どもを泣かす度に叱られたものだ。

「子どもが泣くには、それなりの理由がある。その理由を考えなさい。

子どもが泣くのは、子どもが悪いと思うと自分は上手にならない。

子どもが泣くのは、自分が悪いと思うと、伸びる余地はたくさん生まれる。」

ごもっともである。

もう一点、教授より言われ続けてきたことがある。

「一般に診療は、術者・患者間で行われる。しかし大学での診療はそれとは異なる。

大学での診療は、常に臨床実習生に見られる教育の一部だ。

だから模範となる診療をするようにしなさい。

毎回、子どもが泣き暴れる中で無理に抑えつけて診療すると、それが当然だと思い、将来同じような診療をするだろう。
それは、本小児歯科として、いや大学としても恥だ。

もちろん泣かすことが悪いのではない。避けられない場合もある。

だけど帰る時には、常に笑顔で帰すように心掛けなさい。
(図2)
20140530_2

そうすると卒業生は、それを受け継いでくれるはずだ。」

小児期の治療は、その場限りのものではない。
遠い将来を見据えた上で考える必要がある。

そう! “今日の子どもは、明日の大人”なのである。

大人になっても定期健診に来てもらうためにも、小児期からの信頼関係が重要だ。

このような話でモンゴル歯学生は、時間軸から診療を行う重要性を説いている。

続く

前 岡山大学病院 小児歯科 講師
モンゴル健康科学大学(旧:モンゴル医科大学) 客員教授
歯のふしぎ博物館 館長(Web博物館)
岡崎 好秀
⇒ http://leo.or.jp/Dr.okazaki/