2014年05月16日
モンゴルの歯学生に乳歯う蝕の洪水は、単にう蝕処置を繰り返すのみでは根本的な解決にはつながらないと述べた。
さて、英語の“う蝕の治療”には二つの表現がある。
“Cavity treatment”と“Caries treatment”である。
さて、この2つどのように違うのか?
Cavity とは“穴”の意であるから、前者は穴を削って詰めるだけの治療を指す。
しかし、いくら削って詰めても、う蝕が発生した環境を変えないことには、元の木阿弥である。
(図1)
そこでその原因を遡り改善すること。
これが“Caries treatment”なのだ。
さて前回、3歳で乳歯う蝕のない小児は、12歳での永久歯う蝕は平均3.4歯。
一方、9歯以上の群は約7歯と、約2倍のスピードで増加していた。
しかし、3歳で9歯以上であっても処置終了後、継続的に定期健診を受ければ12歳時には約1.5本に抑えることができる。
(図2)
また乳歯う蝕処置の予後についても触れた。
乳歯修復物の寿命は、想像以上に短く2年余り。
しかしである・・。
1・2歳時に初診で訪れ、処置をした2年後の機能歯率は38.8%、
しかし、その後定期健診を受けた群では58.0%であった。
(図3)(注1)
まさに定期健診により、予後が大きく改善されることがわかる。
歯学生には、この話をした後、20数年前に撮影した遊牧民の口腔写真を見せる。
(図4)
「モンゴル遊牧民は、このような素晴らしい歯をしてきたから、厳しい自然に立ち向かうことができたのだ」と伝える。
すると学生は良い顔になる。
さらに「大モンゴル帝国を築いた君達の祖先が、遥かヨーロッパまで達することができたのも、この歯のおかげだ!」と言うと学生の目が輝き出す。
「それでは、今のモンゴルの子ども達が再び、このような歯を取り戻すことができるだろうか?」と問いかける。
誰もが“ノー!”と首を横に振る。
そこですかさず言う。
「モンゴルの子ども達を、かつての遊牧民のような歯にするのが、君達の仕事だ!」
講義室には歓声に包まれる。
続く
注1:岡崎好秀:小児歯科の定期健診の必要性に関する研究 -第2報 定期健診が乳歯修復物の機能期間に与える影響-、小児歯誌、39:206-214、2001.
http://okazaki8020.sakura.ne.jp/cgi-bin/2001-1.pdf
前 岡山大学病院 小児歯科 講師
モンゴル健康科学大学(旧:モンゴル医科大学) 客員教授
歯のふしぎ博物館 館長(Web博物館)
岡崎 好秀
⇒ http://leo.or.jp/Dr.okazaki/