MAIL MAGAZINE メールマガジン

冬季オリンピックにまつわる歯の話

2014年02月27日

現在、ロシアのソチで冬季オリンピックが開催中だ。
日本時間の未明に行われているので、寝不足の方も多いことだろう。
さて、オリンピックの選手村は3つあり、6,000名以上の選手やコーチが滞在している。
中には、郵便局や美容院、それにゲームセンターまであると言う。
(図1)
スライド1

当然、医療センターもあるが、さまざまな科の診療所が開設されている。
冬にはインフルエンザが流行るから“内科”が必要だろう。
またスポーツには怪我がつきものだから“整形外科”も重要だ。
もちろん、スポーツ選手は“歯が命”。
当然“歯科”も欠かせない。
ところで某冬季オリンピックの選手村、もっとも患者数の多かったのはどの科だろう?
(図2)
スライド2

1998年のリレハンメルオリンピックでは、延べ434名の患者のうち、歯科は205名と約半数を占めていた。
そこで次の長野での開催時には、国際オリンピック委員会(IOC)の医事委員会から、歯科医師は2人体制にするよう指示があったと言う。

そう言えば、メダリストの某ジャンプ選手が、スポーツ歯科のシンポジウムに出席されるので聞きに行ったことがある。
そこで、非常に興味深い話を聞いたので紹介する。
某選手曰く
「ジャンプ競技は真っ直ぐに飛ぶことが重要です。
ところがどうしても曲がってしまうのです。
すると飛距離が伸びないのです。
(図3)
スライド3

最初は、体のバランスが悪いと思い、筋トレをしたのですが思ったほど伸びません。
今日は、このシンポジウムに出席し、初めてその理由がわかりました。
次のオリンピックは期待してください!」

この選手、歯並びに問題があったのだ。
通常、ヒトの歯や骨は左右対称にできている。
しかしズレがあると、体のバランスが変化し姿勢や歩行にも影響する。
ちょうど左右高さの違うハイヒールを履くようなものだ。

ここで、体のバランスを簡単に調べる方法を紹介する。
眼を閉じて、その場で1分間足踏みをする。
ヒトの体の性質上、多少前に進むのは正常だ。
ところが不正咬合や噛み癖により、知らない間に体は回転してしまう。
右の噛み癖があれば、体は右へ回転する。
左ならば、体も左へ向いてしまう。
(図4)
スライド4

某放送局のアナウンサーが取材に来られた時に実験した。
30秒あたりから、急に右側へ回転し始める。
そしてアナウンサーが目を開けたとき驚かれた。
1分後には、右へ90度回転していたのだ。
“左に齲蝕があるため右で噛んでいる”とのことだった。(注1)

歯のズレが、オリンピックの成績にも影響することがわかる。
逆に、競技が歯や顎のズレを引き起こすこともある。
スピードスケートでは、左廻りで争うので片側の歯が摩耗すると言う。
選手の歯を見ながら、観戦すると新たな発見があるかもしれぬ。

注1:バランス実験の様子(筆者のホームページ内)
http://okazaki8020.sakura.ne.jp/cgi-bin/balance.wmv

 前 岡山大学病院 小児歯科 講師
 モンゴル健康科学大学(旧:モンゴル医科大学) 客員教授
 歯のふしぎ博物館 館長(Web博物館)
 岡崎 好秀
 ⇒ http://leo.or.jp/Dr.okazaki/