MAIL MAGAZINE メールマガジン

ウシの糞とウマの糞 よく燃えるのは? その2

2013年12月13日

モンゴルの冬は、氷点下40度にも達する。
ちなみに氷点下15度で、バナナが凍り釘を打つ事ができる。

(図1)
photo1

この空気が鼻から入っても、喉の奥では体温付近になると言う。
鼻腔内の毛細血管により加温されるためだ。
そう言えば、日本でも寒い日に口を開けていると肺が痛くなる。
肺は寒さに弱いのだ。

(図2)
photo2

だから、モンゴル人は、空気を暖めるため副鼻腔が大きい。
そこで、頬骨が発達し扁平な顔貌となる。
これも一種の防御作用と言える。
そのためモンゴルでは、口をポカ~ンと開けている子どもは見たことがない。

さて、寒い遊牧生活には、暖房のための燃料が欠かせない。
そこで活用されるのが、乾燥した草食動物の糞である。
ところで前号の質問、ウシの糞とウマの糞の話。
よく燃えるのはウシの方だ。

(図3)
photo3

どうしてか?

草食動物は、硬い食物繊維のセルロースを噛み砕くため、強力な歯を持っている。
しかし、これを分解する消化酵素を持っていない。
そこで腸内細菌の力を借りて分解が進む。
同じ草食でありながら、ウマは奇蹄類、ウシは偶蹄類に分類される。
蹄の数が異なるのだ。
さらにウマは、盲腸や結腸で草を発酵させる。
一方、ウシは四つの胃を持ち反芻を繰り返す中で発酵させる。
その分、ウシの方が消化が進み燃えやすい。
だから暖をとるには有効だ。

しかし、ウマの糞にも長所がある。
これを燃やすと“虫よけ”になると言う。
どうしてか?
さてモンゴルの草原は、ハーブが群生している。
そもそもハーブは、植物が虫に食べられないように作り出したものだ。
しかも、ウマは反芻しない分だけ噛む回数が少ない。
だから、糞には多くの草が含まれる。
これを燃やすから、かすかにハーブの臭いがすると言う。
だから虫が逃げていくのだ。

(図4)
photo4

噛む回数の差が、燃料の差となることがわかる。

そこでウシは1日に何回噛むのだろう思い獣医学の本を調べた。
その結果。
ウシは一口50回噛むらしい。
しかも反芻の回数が1日600回
なんと!1日に30,000回噛む計算となる。

そう言えば有名な復元食の研究では,
現代人の咀嚼回数は1日620回。
そして江戸時代では1,465回。
さらに弥生時代では、3,990回と記されている。
なんと現代人の50倍ではないか!
人間は、やはり草食動物にはなれないのだ。

 前 岡山大学病院 小児歯科 講師
 モンゴル健康科学大学(旧:モンゴル医科大学) 客員教授
 歯のふしぎ博物館 館長(Web博物館)
 岡崎 好秀
 ⇒ http://leo.or.jp/Dr.okazaki/