2011年01月17日
口は、食物の捕食、咀嚼、そして嚥下する役割を担っている。
生涯にわたり“おいしく食べる”・“楽しく食べる”ことは、人間としての至上の喜びである。
この喜びは、内的な喜びである。
別の表現をすると“一人称の喜び”とも言える。
しかし口は、同時に言葉を発する場所でもある。
家族や友人と楽しく語らうこと。
これは、対社会的な喜びである。
言い換えれば、“二人称”・“三人称”の喜びとも言える。
残念ながら歯科関係者は、後者に対する理解が十分とは言えないのが現状である。
最近、高齢者に対する摂食嚥下機能に関する講習会が各地で開催されている。
しかし、これらに問題のある方は、構音障害を伴うことが多い。
言いかえれば、摂食嚥下障害に対するアプローチは、そのまま構音障害の改善にもつながる可能性がある。
実際、嚥下体操や舌体操は、摂食嚥下のみならず構音を司る器官の訓練でもある。
さて一方、肢体不自由児の療育の分野では、摂食と構音には深い関わりがあることが知られてきた。
筆者が、脳性マヒ児の早期訓練施設で、初めて言語聴覚士の摂食機能訓練を見学したのは30年前のことである。
当時、言語聴覚士は、“構音”の発達や改善を促す職種と理解していたので、どうして摂食機能訓練を行っているのかわからなかった。
そこで、その理由について聞いたところ「言葉を話すことより、食べる方が単純な動きです。だから食べる訓練を行うことは、口腔の機能を促し構音の発達につながるのです。」と答えられた。
なるほど! 正にその通りである。
これを“プレスピーチ”と言う。
このように摂食機能訓練は、食べることを目的とするだけではなく、構音とも密接な関係を持つのである。
以来、筆者は構音に興味を持ち続けて来た。
そこで今回から、構音について述べてみたい。
さて構音障害は以下の4つに分けることができる。
1:器質性構音障害 - 音声器官における形態上の問題により引き起こされる発音上の障害。(唇顎口蓋裂や無歯顎状態など)
2:運動障害性構音障害 - 音声器官の運動機能の問題による発話の障害。
(高齢者の脳血管障害や脳性麻痺など)
3:聴覚性構音障害 - 聴力の問題による二次的な発音の障害。
4:機能性構音障害 - 病気や解剖学的な問題がなく起こる発音の障害。
(最近、急増していると言われ、軟食化における小児期を中心とした口腔機能の発達不全などが原因とされる。)
このうち1・2・4の構音障害は、我々の領域と深くかかわりがあることがわかる。
以上述べてきたように、口腔機能の向上を摂食機能の改善としてだけ論じるのは、あまりにももったいないように思われる。
そこで 次回から口腔機能と構音との関係について詳しく述べることにする。
続く
*注1.構音:ある音声を発するために、声門より上の音声器官を閉鎖したり狭めたりすること。
お知らせ:
筆者が毎年参加させていただいているスタディグループがある。
「子どもの咬合を考える会」の名のもとに“不正咬合は、予防できる。”を合言葉に月1回 京都を中心に活動されている。
年に1回特別講演会が開催され、例年多くの参加者で賑わっている。
本年も4月10日(日)に特別講演会が開催される予定である。
本年のテーマは「食育から考える子どもの健口未来」であり、食育の分野では第1人者である昭和大学歯学部 小児成育歯科学教室 教授の井上美津子先生を中心として行われ、筆者も一部お話しさせていただく予定である。
興味のある方は、以下をクリックしてください。
子どもの咬合を考える会
https://www.kodomo3d.org/
>>岡崎先生のホームペ-ジ
http://leo.or.jp/Dr.okazaki/