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ミュータンス菌の母子感染に思う その3

2013年09月17日

感染には、生体にとって有益に働くものと不利なものがある。
細菌やウイルスにより、さまざまな病気を発症するのは後者である。
またミュータンス菌の母子感染もその一つと言える。
一方、有益に働くものについても知っておく必要があるだろう。
代表的なものは、皮膚や腸管内に住む常在菌の感染である。
常在菌叢の形成により、細菌同士が平衡状態を保ち、新たな病原菌の侵入を食い止める。
これは生体にとって必要な感染とも言える。

このような動物と細菌との共生関係は、他にも見られる。

例えば、草食動物の消化である。

彼らは、セルロースなど難消化性の植物をエネルギー源としている。
しかし、自らの消化酵素では、それらを分解することはできない。
そこで腸内細菌が持つ酵素、セルラーゼにより発酵させ吸収する。
この細菌も親から感染したものである。
そう言えばコアラは、毒性を持つユーカリを食べる。
コアラの赤ちゃんは、その菌を感染させるために、母親の肛門に吻を押し込み、未消化の緑色の糞(パップ)を食べる。

(図1)

これはコアラの離乳食と言える。
同時に、ユーカリを分解できる菌を親から子に受け継ぐのだ。

そう言えば、ウサギも糞を食べる。
我々が眼にする、丸くてコロコロしたものは二度目の糞である。
一度目の糞は、カプセル状で中がトロッとしている。
排泄するや否や、ウサギはこれを食べてしまう。

(図2)

ちなみに実験的にオムツをし、最初の糞を食べさせないと健康状態が悪化し死に至る。
ウサギは、どうして糞食をするのか?

その理由。

ウサギは、盲腸に住む細菌によって、食物繊維を発酵させると同時にビタミンB12も合成させている。
しかし、盲腸は小腸の後にある。
だから充分に栄養素を吸収することができない。
それを補うため、コアラやウサギなど盲腸発酵の動物は糞を食べるのだ。
いずれにせよ、草食動物の消化は、細菌なしには語ることはできない。
これら動物は、進化の過程で常在菌との間に共生関係を築いてきたことがわかる。

そう言えば、“発酵”と“腐敗”という言葉がある。
細菌などにより有機物が分解された生成物が、我々にとって有用性のある場合は“発酵”。
一方、悪臭など不利益を被るものは“腐敗”と呼ぶ。
我々に有用か否かで言葉が変わるのだ。
“感染”という言葉も、患者さんに誤解されない様に使う必要がありそうだ。

 前 岡山大学病院 小児歯科 講師
 モンゴル健康科学大学(旧:モンゴル医科大学) 客員教授
 歯のふしぎ博物館 館長(Web博物館)
 岡崎 好秀 ⇒ http://leo.or.jp/Dr.okazaki/