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ミュータンス菌の母子感染に思う その2

2013年09月16日

ミュータンス菌は、母子を中心とした家族間で感染する。

そこで、感染リスクを減らすために、
(1)保護者の噛み与え
(2)口移しであげる
(3)スプーンや箸の共有などを控える
と言われている。

しかし、現場では困った問題も起きている。

*乳幼児歯科健診にグニャグニャになった歯ブラシを持って来た保護者がいた。不思議に思い、その理由を尋ねると、“感染を防ぐために、歯ブラシの使用後には熱湯消毒している”とのこと。

*ある保育所の保育士からの相談で、「同じクラスにむし歯の多い子がおり、むし歯菌が感染するのでクラスを変えて欲しい」と保護者に言われた。

*母親は歯周病菌が母子感染すると聞き、乳児に感染させたと思いこみ、その乳児を殺害し自らも自殺したという痛ましい事件。(注1)

いささか極端な事例をあげたが、いたずらに不安を煽るだけの指導は控えたいものである。

それでは、この問題に対しどのように対処すればよいのだろう。

さて、カタカナの“ヒト”と漢字の“人”の文字の使い方には約束事がある。
“ヒト”は、生物としてとらえる場合に使用する。
だから“ヒトの化石”と言うが、“人間の化石”という言葉は使わない。
一方、“人”は社会的な意味を含む場合に使用する。
文字通り“人間”は“人”と“人”との間と書くことからもわかる。
“ミュータンス菌が感染する”という事実は、前者の問題であることがわかる。
しかし、“噛み与え”は、人と人との関係であるから後者の問題だ。
保健指導には、この2つの“ものさし”を考えておく必要がある。

ところで、“ヒト”を使う場合でも、こんな指摘があることをご存じだろうか?
“伝染性単核球症”という病気がある。
別名「キス病」と言われ、唾液中のヘルペスウイルスの仲間であるEBウイルスにより起こる急性感染症である。(注2)
わが国では、2~3歳は70%、 20歳代では90%以上がこのウイルスに対する抗体を持っている。
乳幼児期では不顕性感染が多いが、思春期以降の感染では症状が出現する。
この病気が、思春期以降に増加していると感じている学者がいる。
その理由の一つとして“市販の離乳食が増え、親の噛み与えが減ったこと”が指摘されているのである。
(図1)

つづく

注1:30年前の事件 背景として家族間の問題もあったようである。
注2:エプスタイン・バール・ウイルス

 前 岡山大学病院 小児歯科 講師
 モンゴル健康科学大学(旧:モンゴル医科大学) 客員教授
 歯のふしぎ博物館 館長(Web博物館)
 岡崎 好秀 ⇒ http://leo.or.jp/Dr.okazaki/