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イルカの歯のふしぎ その5/下顎骨で音を聞く

2013年06月28日

イルカの治療を終えた後も、考えておくべきことがある。何故、このようなことが起こったのか?

同じことを繰り返さないためにも、原因を究明することが肝要だ。
そこで他のイルカの口も見せていただいた。
若いイルカは、きれいな歯列をしている。
(図1)

しかし加齢と伴に、部分的に歯軸が傾斜している歯が増える。
しかも、そんな歯にポリープも見られる。
(図2)

それに、頬側に黒い沈着物が付着している個体もいる。
さらには、丸飲み食べをするのに歯が摩耗までしている。

よく見ると、年齢はイルカの背びれにも現れる。
若いイルカは、はりがありスベスベした感じだ。
しかし加齢と伴に、カサカサし光沢が失われる。
(図3)

まさにヒトと同じではないか!
水族館のイルカにも高齢化の波が押し寄せているのかもしれぬ。

さて今回の問題は、歯軸の傾斜によりポケットから感染し、膿瘍ができたと推察される。

獣医師は、何か予防法はないかと聞く。
弱った歯肉から細菌が侵入するのであれば、そこをきれいにするしかない。
そのためには歯頸部を歯ブラシで磨くのも一つだ。
しかしイルカの歯肉は、驚くほど硬い。
とても歯ブラシで対応できる代物ではない。

それでは、超音波歯ブラシではどうだろう?
これならポケットの深い部分まできれいになるかもしれぬ。

ところが獣医師に即座に否定された。
なぜならイルカは下顎で音を聞いているのだ。

そもそも水中では、空気を介してのコミュニケーションは取れない。
そこでイルカは、噴気孔の下にある鼻道の気嚢を振動させて超音波を出す。
それを前頭部のメロンで収束し、ビームとして前方へ発射する。
しかし水中を帰ってくる音は、耳を通して聞くことはできない。
外耳道が閉じているからだ。

そこでイルカの下顎骨は、特殊な構造になっている。
下顎神経が通る下顎孔が大きく窪んでおり、音響脂肪で満たされている。
この脂肪組織は、極めて音を伝えやすい性質を持つ。
脂肪と海水の密度は類似しており、振動の減衰が少ないためだ。
これを介して内耳へと伝えられる。

(図4)

だから超音波歯ブラシなんてとんでもない。
我々の耳元で拡声器を使われるようなものである。
他に何か方法はないか?
その前に、そもそもイルカの歯周組織は、どのようになっているのだろう?
ポケットの正常値はどの程度なのか?
歯軸が傾斜している歯のポケットは深いのか?
まず、そこから調べねばならぬ。
そこで世界初、イルカの歯周基本検査を行うこととなった。

続く

 前 岡山大学病院 小児歯科
 講師 モンゴル健康科学大学(旧:モンゴル医科大学) 客員教授
 歯のふしぎ博物館 館長(Web博物館)
 岡崎 好秀 ⇒ http://leo.or.jp/Dr.okazaki/