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イルカの歯のふしぎ その4/イルカにも誤嚥性肺炎?

2013年06月17日

イルカの口蓋部の掻爬を終えた後には、感染予防と止血の処置が待っている。
とりあえず処置部には、感染予防のためにTCコーンを挿入した。
また、すぐに海水に戻すと血餅が取れドライソケットになる可能性がある。
・・・かといってシーネはできないし、歯肉は厚く硬いので縫合どころではない。
そこでスポンゼルを抜歯窩に押し込み、十分な圧迫止血を行った。
しばらくして海水に戻したが、多量の血液が溶け出す様子は見られなかった。
(図1)

処置はこれで終了だが、獣医師との情報交換も必要だ。
今回の問題は、将来も起こる可能性がある。
そこで、さまざまな歯科器具の使い方や臨床の勘所など、お互いのノウハウを伝え合う。

その場で、興味深い話をたくさん聞いたので紹介する。
診療室に内視鏡が備えてあった。
イルカは、ストレスのため胃潰瘍にもなるそうだ。
ヘエ~さすが!知的生物と呼ばれる所以である。

そこで早朝に、プールの海水を抜いて胃洗浄を行う。
そして観客が来る前に、プールを海水で満たしておく。
(図2)

これで開園時間の準備が整う。

イルカの咽頭部は、水中でも海水が入らない構造をしている。
その代り、水分はサカナなどのエサから補給する。
ヒトと違い、呼吸は頭頂部の噴気孔を利用する。
だから口からの水は、肺に入ることはない。
しかし一方、空気中の汚染物質が入ると、肺炎を引き起こす可能性が出てくる。
へえ~!だったら、PM2.5の問題は、イルカの健康に影響するかもしれぬ。
・・・と言うことは、水面の浮遊物や汚染物質も噴気孔から入ると、一種の誤嚥性肺炎と言えるのではないか!
(図3)

さて、“獣医は十医”という言葉がある。
歯科医師はヒトの歯のみを対象とするが、獣医師はあらゆる動物を対象とする。
獣医師というとペットの治療を想像しがちだが、実際には小動物を対象とする方は4割にも満たない。
そもそも日本の獣医師の歴史は、軍馬から始まった。
強い軍隊を作るためには必要なことだったのだ。
そしてウシやブタ、ニワトリなど食糧確保のための産業動物が加わる。
だから獣医師免許は、農水省の免許となっている。

その他、トラやキリンなどの野生動物。
さらにはマウスやモルモットなどの実験動物。
広大な守備範囲を持つ職業である。
多くの動物の治療にあたるから“十医”なのだ。

それに加え人間のように言葉は通じないし、おとなしくもしてくれない。
しかも動物によって、形態や機能も千差万別だ。
獣医学部での講義の大半は大型動物であり、小型動物の占める割合は少ない。
だからイルカの歯の治療は、未知の分野であり各論中の各論だろう。
新たな分野が発展するためにも、このような機会を活かし歯に対する理解を深めることは重要なのだ。

続く

 前 岡山大学病院 小児歯科 講師
 モンゴル健康科学大学(旧:モンゴル医科大学) 客員教授
 歯のふしぎ博物館 館長(Web博物館)
 岡崎 好秀 ⇒ http://leo.or.jp/Dr.okazaki/