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インフルエンザ考【その9】うがい考

2018年06月29日

風邪を引くと喉が痛み、水を飲み込みにくい。

炎症で扁桃が腫れ、咽頭腔が狭くなっているのだろう。

うがいをしても、ピンポイントで痛む場所に届いているとは思えない。
(図1)

そう感じるのは、筆者だけだろうか?

さて、鏡の前で口を開けると、口蓋垂とその両側に口蓋扁桃がある。

目で見える部分が中咽頭である。

次に、舌根より奥が下咽頭。

舌根部の粘膜下には舌扁桃がある。

そして、口蓋垂の裏より上が上咽頭。
(図2)

鼻の奥で咽頭の上部なので直視できない。

ここには、耳管開口部の周囲に耳管扁桃。

そして咽頭後壁の上部には咽頭扁桃がある。

これら咽頭の入り口には、ワルダイエルの咽頭輪と呼ばれる扁桃組織がある。

これら4つの扁桃は、口や鼻からの感染防御のため重要な役割を持つ。
(図3)

ちなみにアデノイドは、咽頭扁桃のことである。

幼児期に肥大するのは、感染と関係が深い。

この時期、免疫システムが未熟なために生体はアデノイドを肥大させるのだ。

そして成長とともに、免疫システムが確立するため縮小する。

さて風邪の時、喉の痛むのは中咽頭から下咽頭である。

しかし目で見ても、その部分の特定は難しく、綿棒などで触れても痛み感じない。

実際には、喉の痛みは上咽頭に起因することが多いのだ。

ある耳鼻咽喉科の医師よれば、喉の痛みの90%が上咽頭に原因があるという。
(図4)

痛みを感じる中咽頭に炎症があったのはわずか10%に過ぎない。(注1)

炎症のある部分と、実際に痛みを感じる部分は違うのである。

不思議に思うかもしれないが、これは歯科医師もよく経験することだ。

下顎に疼痛の原因があるのに、上顎の歯が痛むという。

そう!関連痛である。

心筋梗塞で、左上腕が痛むのと同じである。

また風邪の症状である頭痛や肩こりもその一つと考えらえる。

いずれにせよ、喉の痛みは上咽頭の炎症に起因している可能性が強い。

さて、“うがい”で中咽頭はきれいになるだろう。

しかし解剖学的には、どう考えても上咽頭まで届かないはず。

実際、首相官邸ホームページでは、「うがいは、インフルエンザの予防効果については科学的に証明されていない」と書かれている。(注2)

だとすれば、“うがい”についてどう考えれば良いのか?

歯科医師は、口腔を通して中咽頭だけ見ている。

しかし、軟口蓋の裏にある上咽頭は未知の分野である。

続く

注1:杉田麟也:上咽頭炎の診断方法と治療: 細胞診による病態の把握,口腔・
咽頭科23(1)23-35,2010.
注2:首相官邸 季節性インフルエンザ対策2018年6月26日閲覧
http://www.kantei.go.jp/jp/headline/kansensho/influenza.html
参考:堀田 修:病気が治る鼻うがい健康法,角川マガジンズ,2011.
今井一彰:口腔と全身のミッシングリンクを探して,不知火書房,2016.
http://www.shien.co.jp/act/d.do?id=8101

前 岡山大学病院 小児歯科 講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
岡崎 好秀
http://leo.or.jp/Dr.okazaki/