2018年06月04日
“口腔ケアがインフルエンザの予防に効果がある”といわれる。
それは以下の研究結果に基づくものだ。
まず在宅療養高齢者を口腔ケア群(平均年齢81.0±8.0歳 98名)とコントロール群(平均年齢83.5±6.3歳 92名)に分ける。
そして口腔ケア群は、歯科衛生士による専門的口腔ケアと集団口腔衛生指導を、コントロール群は本人・介護者による従来の口腔ケアを行う。
(図1)
そしてインフルエンザの流行する冬季6か月間の発症者を追跡した。
その結果、口腔ケア群1.0%(1/98名)は、コントロール群9.8%(9/92名)と比べインフルエンザの発症者が1/10であった。
(図2)
始めてこの結果を見た時、少し違和感を覚えた。
どうして口腔ケアとインフルエンザが関係するのだろう?
そこで、この点について触れてみる。
さてインフルエンザウイルスは、発症のために2つの武器を持つ。
これは表面にある突起物なので、ミサイルに例えて話を進める。
まず第一は、HAミサイル(ヘマグルチニン:赤血球凝集素)で、宿主細胞への侵入に関与する。
続けて第二は、NAミサイル(ノイラミニダーゼ)でその増殖に関与する。
(図3)
さて、ウイルスは上気道の粘膜に侵入しようとするが簡単ではない。
まずHAミサイルを打ち上げる(活性化)ためには燃料がいる。
これがプロテアーゼ(TLP)というタンパク分解酵素である
この燃料は、HAミサイルが持つのではなく、咽頭や上気道粘膜の細胞にある。
そこで、この細胞から燃料を受け取ると同時に侵入する。
インフルエンザが上気道から発症するのはこのためだ。
さてこの燃料であるプロテアーゼは、他の細菌も作り出すことができる。
例えば、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、それに肺炎球菌。
これらは口腔内にも存在する細菌だ。
さらには、歯周病の原性に関与するP.g.菌(Porphyromonas gingivails)なども同様だ。
従って口腔内が不潔であると、二次的にミサイルの燃料が増加し粘膜への侵入を許す。
そう言えば、プロテアーゼは食物にも含まれる。
(図4)
例えば、パイナップル・キウイ・イチジク、それに玉ネギ・大根・ニンニクにも含まれる。
パイナップルを食べると、舌がヒリヒリするのはこのためだ。
またステーキには、パイナップルやニンニク、大根おろしが添えられる。
これは肉を軟らかくすると同時に、消化を良くするためだ。(図4)
プロテアーゼがプラスに働くと食物の消化吸収を促し、マイナスに働くとウイルスの侵入を許すことがわかる。
続く
参考 阿部修ら:健康な心と身体は口腔から ―高齢者呼吸器感染予防の口腔ケア―,日歯医学会誌:25.27-33,2006.
前 岡山大学病院 小児歯科 講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
岡崎 好秀
⇒ http://leo.or.jp/Dr.okazaki/