2003年12月01日
前回質問。「貝原益軒は、“口をすすいだ湯”が“ある薬”になる、その“薬”とは、以下のどれだろう?」
1:傷薬
2:目薬
3:毛生え薬
この答え、養生訓では2の“目薬”と書かれている。口をゆすいだ湯を目薬にしたら、結膜炎になりそうであるし、まさに“眉唾(まゆつば)”ではなかろうか。
益軒は、このおかげで80歳になっても、目は良く見えるし、1本の歯も失っていないと述べている。益軒は、8028を達成していたのだ。
でも、どうして“口をゆすいだ湯”、すなわち唾液にこのような作用があるのだろうか?
さて、動物は怪我をすると,傷口を舐める。
そう言えば,私たちも幼い頃、傷口を無意識に舐めていたことを思い出す。
おそらくこの行為は、動物として本能的なものであろう。
しかし、どうして舐めるのだろうか?
じつは、唾液(だえき)には傷口を消毒する成分が含まれている。
例えば、リゾチーム。風邪薬にも含まれているので、ご存知の方も多いかと思う。
他にもラクトフェリンや免疫グロブリンであるLga等が含まれ、殺菌作用を持っている。
ところで、体を構成する細胞は約60兆個,しかし体に付着する細菌数は、およそ100兆個。体の細胞より細菌の数の方が多い。
ちなみに唾液1ミリリットル中の細菌数は、1億から10億個。それに比べ、皮膚の表面には一平方センチあたり千個と少ない。
もし皮膚に唾液と同じ数の細菌が生息していれば、傷口は化膿するに違いない。
ところが、口の中の傷は化膿しにくい。これこそ、唾液の殺菌作用と考えられる。
ところで、傷口をなめる理由は他にもある。
口の中の傷は、皮膚の傷より数倍治りが早い。
唾液の中には、傷口を早く治す物質(上皮成長促進因子・EGF)も含まれている。
面白い実験がある。
まずネズミの背中を一センチ四方に切る。そしてネズミを一匹づつ飼った場合と数匹を一緒に飼った場合を比べる。
数匹を一緒に飼うと,ネズミはお互いの傷口を舐めあう。しかし、一匹では自ら背中の傷を舐めることが出来ない。
一匹づつ飼った場合,二日後の傷口は20%しか治っていない。しかし、互いに舐めあったネズミは,75%も傷口がふさがっていた。
唾液には,傷口を早く治す作用があることがわかる。(図1)
唾液には、もっと他にも面白い作用がある。
たとえば、“よく噛むことは,ガンの予防になる”と言われる。
これは、唾液中の酵素ペルオキィシダーゼによるもので、さまざまな発ガン物質を唾液に30秒間漬けると、発ガン作用は,著明に低下する。
よく噛むことで唾液の分泌は盛んになり、ガンの予防につながる。(図2)
さて唾液は、歯を守る働きもある。この点については、次回述べよう。