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おもしろ唾液学(新シリーズ)~その3 【唾液の緩衝作用とは?】

2003年12月15日

ヒトでもっとも寿命の短い歯は、下顎第一大臼歯の53年で、続いて上顎第一大臼歯の58年である。

第一大臼歯は,咬合の面からも重要な歯であるが、裂溝が深く,形態的にも複雑なため齲蝕になりやすい。

逆に,前歯の寿命は比較的長く、上顎中切歯が62年、下では66年である。
前歯は、形態が単純なため齲蝕になりにくい。

ところで、上顎前歯と下顎前歯は、よく似た形態なのに、下顎前歯の方が寿命が長いのは何故だろう?

この差,唾液によるものと考えられる。

下顎前歯の内側には,唾液腺の開口部がある。溢れ出る唾液のおかげで、下顎前歯は齲蝕になりにくい。

サカナに齲蝕がないのも,常に水で洗い流されているためであろう。

さて、蔗糖を摂取すると急激に歯垢のpHが低下し酸性に傾く。

歯は、酸度がpH5.5より低下すると,脱灰される。(図1)

 

図1

 

この間が約二十分。

元の中性の状態に戻るためには、約一時間もかかる。中性に戻るのは、唾液の作用である。

さてヒトが生きていくためには、多くの酵素が働いている。

そのため血液のpHは、7.35~7.45(正常動脈血)の弱アルカリ性に保たれており,pHが6.8以下、7.8以上では、もはや生命保持が不可能となる。

診療室で経験する手足の痺れや動悸、めまいを症状とする過換気症候群は、過度の呼吸により、CO2濃度が低下し、呼吸性アルカロ-シスに陥った状態である。

もし、酸度の強い清涼飲料水を飲み、吸収されpHが酸性に傾くと、さまざまな不都合が生じる。

ところが実際には、ヒトの体液のpHを調べてもほとんど変化しない。

この性質が緩衝作用である。

簡単な緩衝作用の実験をしてみた。

まず蒸留水を5CC用意する。蒸留水のpHは約7.0だ。

このアンプルに0.1規定の塩酸0.2CC入れる。pHを測ると2.3になった。

次に,pH7.1の唾液を5CC用意した。

ここに先ほどと同じ量の塩酸を加えると、pHはどの位になるだろう?(図2)

 

図2

 

pHは6.0までしか低下しなかった。

これが唾液の緩衝作用である。(図3)

 

図3

 

ちなみにpH2.3になった蒸留水を水で薄めて、pH6.0にするには、どの位の水を追加する必要があるだろう。

実に,五リットルもの水を加える必要があるのだ。(図4)

 

図4

 

いかに唾液が,齲蝕予防に効果があるかがわかる。

次回から、この点について詳しく述べる。