2015年10月05日
養生訓を著した貝原益軒は、歯や口にまつわる健康法についても述べている。
その中に興味深い一文があったので紹介する。
「朝、ぬるま湯で口をすすいで、昨日から歯にたまっているものを吐き出す。
そして、干した塩で上下の歯と歯グキを磨き、温湯で二十・三十回口をすすぐ。
最後に口に含んだ湯を粗い布でこし、お碗に入れる。」
驚くべきことに、“口をすすいだ湯”が“ある薬”になると言う。
さて、“ある薬”とは何だろう?
1:風邪薬
2:目薬
3:毛はえ薬
答は、なんと“目薬”なのである。
益軒は、これを実践しているおかげで80歳を過ぎても、目は良く見えるし、
1本の歯も失っていないと述べている。
彼は、8020の達成どころか、28本の歯を残していたのだ。
口をゆすいだ湯を目薬にしたら、結膜炎になりそうだ。
いやいや、これこそ本当の“眉唾(まゆつば)”かもしれない。
でも、どうして“口をゆすいだ湯”にはこのような作用があるのだろう?
まずは、唾液の作用が考えられる。
動物はケガをすると、傷口を舐める。
誰もが、傷口に唾液をつけた経験を持つだろう。
きっとこれは、動物として本能的なものなのだろう。
そう言えば、昔から、
“お年よりで唾液の多い人は、長生きする”
“よだれの多い赤ちゃんは健康に育つ”
と言われてきた。
これは、唾液と健康との間に深いつながりがあることを意味している。
しかし、これまで唾液についての研究は多いとは言えない。
そこで、今回から唾液について述べることにする。
さて唾液には、さまざまな抗菌物質が含まれる。
まずは、リゾチーム。
これは医薬品として風邪薬などに含まれる。
かつては、消炎酵素剤として歯科でも多用されていた。
次にラクトフェリン。
鉄との結合性が強く、細菌から奪い去ることで、その増殖を抑制する。
この働きにより、歯周病の予防効果も認められる。
最近では、腸管周囲の脂肪細胞に働きかけ、内臓脂肪の低減にも関与するらしい。
さらにはIgA(アイ・ジーエイ)。
初乳に含まれる免疫物質で、腸管の表面を覆い赤ちゃんの感染予防に役立つ。
他にペルオキィシターゼもある。
多くの発ガン物質を唾液に30秒間漬けると、発ガン作用(変異原性)が著明に低下する。
“よく噛むとガンの予防になる”と言われる。
しかし、噛むことが予防になるのではない。
そのことで食物の表面積が増え、唾液に曝されることが重要なのである。
口は唾液により守られていることがわかる。
続く
前 岡山大学病院 小児歯科 講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
岡崎 好秀
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