2015年05月07日
小児歯科医の増田純一先生から“小学2・3年生の頃、上顎側切歯の萌出部の口蓋側が隆起する。これは上顎の歯列不正のサインだ!”と教えていただいた。
以来、学校歯科検診では、口蓋にも注意を払いながら診るようにしている。
確かに、隆起は上顎中切歯の萌出前には見られない。
しかし、中切歯の萌出後より次第に目立つケースがある。
そして側切歯の萌出後には消失する。
隆起があると、側切歯は口蓋側に萌出する。
そう! これは、側切歯の歯冠なのだ。
乳歯列において側切歯は、中切歯の口蓋側に位置する。
(図2)
これが正常な位置に萌出するのは、舌圧によるものだろう。
なぜなら嚥下の際、舌尖はスポットに当たる。
まさに隆起の部分は、スポット付近に位置するためだ。
側切歯の歯冠は、舌圧により徐々に前方に移動すると考えられる。
さて、軟らかく水分の多い食物は容易に嚥下できる。
でも硬くて水分の少ない場合はどうだろう?
しっかり舌を強く押し当て、より強い嚥下力が必要だ。
この嚥下力の強弱が、隆起の有無に影響するのだろう。
そう言えば、ダウン症児の顔貌の特徴に中顔面の劣成長があげられる。
(図3)
彼らは舌の筋力が弱いために、十分な嚥下圧を作り出すことができない。
すなわち、強い嚥下圧は、上顎骨の前方への発育も促しているのだ。
このようなことを考え始めると、口蓋部の解剖が気になる。
さて硬口蓋は、前方の上顎骨(口蓋突起)と後方の口蓋骨(水平板)からなる。
しかし上顎骨の口蓋は、単一骨ではない。
胎生期に前端にある一次口蓋は、両側の口蓋突起と癒合する。
(図4)
これで口蓋が完成する。
さて、一次口蓋は“切歯骨”であり、口蓋突起との癒合部は切歯縫合と呼ばれる。
しかもこの部位は、スポットに相当し、完全に癒合するのは約30歳頃と言う。
・・・だとすれば、この部位は特に舌圧に影響を受けやすい。
従来 下顎歯列弓は、舌と頬や口唇圧の調和が取れた位置に配列すると言われてきた。
しかし上顎歯列弓も、舌による嚥下圧の影響を受けているのだ。
謎解きは、まだまだ続く。
参考:
今回拝借した増田純一先生の写真の一部が以下の書籍で紹介されているのでご覧いただきたい。
Health Dentistry(健口歯科) 0歳から“噛む”で健康長寿(gradle社発行)
http://www.shien.co.jp/act/d.do?id=7413
前 岡山大学病院 小児歯科 講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
岡崎 好秀
⇒ http://leo.or.jp/Dr.okazaki/