2010年12月06日
口は食物を捕食し咀嚼すると同時に、言葉を発する器官でもある。
そこで今回から、言葉に注目して話を進めよう。
ゴリラやチンパンジー、それにオランウータンなどの類人猿は、高度な知能を持つことが知られている。
もし、人間と同じように育てれば言葉を獲得できるのではないかと考えられた。
そこで1960年代、世界中でチンパンジーを普通の家庭で育てる試みがなされた。
さて、このような条件で育てれば知能はどのようになるのだろうか?
あるゴリラは、1歳2ヶ月から5歳10ヶ月までにさまざまな知能テストを行ったところ、一貫してIQが70から90の値であったという。
もちろん発達テストには、さまざまな側面がある。
移動運動や手の運動、それに言語理解など一概には、人間と比較はできまい。
例えばゴリラは、移動能力に優れていることは容易に想像できる。
でも精神年齢は、どの程度あるのだろう?
誰もが興味あるところである。
先ほどの期間(4年8ヶ月)の間に、このゴリラの精神年齢は10.8ヶ月から4歳8ヶ月まで約3歳8ヶ月分アップしたのである。
知能の発達には、環境要因が重要なことが分かる。
しかし、これだけ知的能力があるにも関わらず、類人猿は言葉を獲得するには至らない。
最も成功したと考えられるチンパンジーでさえ“ママ”・“パパ”・“アップ”・“カップ”のわずか4語であったと言う。
それぞれの意味は「ママ来て」・「パパ来て」・「高い高いして」「ミルク欲しい」といったものである。
さて、これら言葉を獲得した理由。
これ以外の言葉を獲得できなかった理由。
それは、ヒトとチンパンジーの発声器官の解剖学的な差なのである。
まず、4つの言葉を獲得できた理由を述べる。
ここで以下の言葉を言っていただきたい。
「マミムメモ」・「バビブベボ」・「パピプペポ」・「ファ フィ フゥ フェ フォ」
次にこれらの言葉を、口唇を閉じないで言っていただきたい。
そう! これらは、口唇を閉じなければ言えないのだ。
実はこの音。
哺乳類しか発することができない音なのである。
哺乳のためには、口唇で乳首を捕らえ閉鎖して嚥下する必要がある。
従って、口唇の閉鎖機能の発達に伴い、これらの音を発することが可能となる。
乳児の最初の声は、喃語であり、下顎を固定しアーアーという音を出す。
次に、下顎が動くと“アグ・アグ・アグ”となる。
次に、徐々に口唇を閉鎖させていくと“ンマ・ンマ”から“マン・マン”に変化することがわかる。
これが口唇音である。
先ほどの言葉には、これらの音が含まれている。
だからチンパンジーが発音できたのだ。
それでは、どうしてこれ以外の言葉を発することができないのだろう?
つづく
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