2010年11月15日
この20年、ほぼ毎年モンゴルに行くことにしている。
大学などで、公衆衛生や小児歯科診療の講義を行うためである。
モンゴルは、1990年に社会体制が移行し、この20年間大きく変わってきた。
まず食生活の変化による歯科疾患の急増である。
なかでも小児齲蝕の増加が著しい。
乳歯の“むし歯の洪水”と言われた、我が国の1970年代を彷彿させる状態だ。
齲蝕は、首都のウランバートルに始まり、中国との国境や幹線道路に沿って増えている。
一方で、首都では開業歯科医が増加している。
しかし、充分な教育がなされないまま、高級補綴が好んで行われている。
これは、経済格差の増大から考えても問題である。
貧困層は、満足に治療を受けることができない。
しかも保健予防活動に対する取り組みは、ほとんど行われていないのが現状である。
しかし、20年前を知っている筆者は、一概に歯科医師を責める訳には行かない。
当時、猛烈なインフレがこの国を襲っていた。
街を歩いていても、まったく商品が売られていなかった。
食料事情も同じだったのだろう。
空腹感にさいなまれても、お金がなくて買えない。
これは、我が国の終戦直後と酷似している。
お金がない悔しさが、高度経済成長の原動力の一つとなり、現在の繁栄が得られたのであろう。
しかし、この状態をいつまでも許すわけには行かない。
歯科医師としての社会的な立場が低下する可能性がある。
そこで一歯科医師として、この活動を続けている。
さて、筆者がモンゴルへ行く“きっかけ”となった本がある。
題名は、「食生活と身体の退化」。
そう!
1939年アメリカのウエストン・プライスによって著された本である。
彼は、1930年代に世界中の未開の地を廻り、食生活の変化と口腔疾患との関係について調査した。
例えば、南太平洋のニューカレドニア。
海産物の伝統的な食物を食べ、健康な生活を送ってきたメラネシア人の齲蝕罹患率はわずか0.14%であった。
しかし、隣のフィジー諸島には砂糖プランテーションがあり、精製された食物を食べているメラネシア人では30.1%にものぼっていた。
この地域では、齲蝕による痛みが自殺の唯一の原因ともなっていると言う。
さらに齲蝕のみならず、歯周病や不正咬合までも増えていたのだ。
同じことが、南太平洋、北極圏、南アメリカ、アフリカなど世界中で起こっていた。
プライスは、これを70年も前に、膨大な資料や写真で証明していたのである。
さてこの本、故片山恒夫先生により翻訳され1978年に出版されている。
しかしつい先日、リニューアルされ文字が大きく写真も豊富になり読みやすくなった。
筆者の持論。
「口は食物が入る最初の場所である。だから食物が変わると最初に変わるのが口である。」
このことを実証した本である。
秋の夜長、この機会に歯科医師としてのバイブルをご一読いただきたく思う。
発売:農山漁村文化協会 4,200円
問い合わせ先:〒561-0884 豊中市岡町北 3-1-20 恒志会
TEL 06-6852-0224 FAX 06-6852-0446
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