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イルカの歯のふしぎ その1/イルカのドライソケット?

2013年05月10日

ある有名水族館からイルカを診て欲しいという相談を受けた。

なに~! 海に住むイルカ!
(図1)

イルカの歯の治療なんて聞いたことがない。
担当獣医師の話では、口蓋に膿瘍ができ排膿していたとのこと。
鎮静処置と局所麻酔を使い原因歯を抜歯したが、治らないと言う。

(図2)

そこで水族館へ歯を診に行った。
しかし、その前にはイルカの歯について予備知識を持っておかねばならない。
まずイルカの歯の特徴。
イルカは哺乳類であるが、歯はすべて円錐形の同形歯性。
つまり捕食のための歯であり、咀嚼のための臼歯はない。
だから丸飲み食べをする。

(図3)

また生えかわることのない、一生歯性。
哺乳類だから歯根はあるだろう。

次に歯が悪くなった原因は何か?
どう考えても、円錐歯なので齲蝕になる形態ではない。(図3)
ならば歯周病なのか?
でもイルカの歯周病など聞いたことがない。
また外傷による歯冠破折を起こしている可能性もある。

いずれにせよ口蓋が腫れるのだから、原因は上顎の歯だ。
そこから炎症が波及したに違いない。
ちょっと待てよ・・・。
抜歯して治らないのは、上顎洞に炎症があるためではないか?
しかしイルカに上顎洞はあるのだろうか?
いやまてよ・・・、確かイルカの外鼻孔(噴気孔)は頭頂部に開いていた。
(図4)

それなら上顎洞は・・・??
それにイルカの前頭部には、脂肪組織のレモンがある。
発声器である気嚢の振動を収束し、前方へ発射する役目を果たす。
これで他のイルカとコミュニケーションをとっているのだ。

(図5)

そう言えば、腫れが引かない原因は抗生剤の投薬の問題か?
それにヒトでは、抜歯後にうがいをすると血餅が取れる。
水中では、ドライソケットになりやすいのではないか?
だとすれば、麻酔をして掻爬をすればよい。
さらに術後には、止血用にシーネが必要ではないか?
でも、どうして固定をすればよいのだろう?
歯グキの縫合は可能なのか?
これらのことが、瞬時に脳裏をかすめる。
たくさんの課題をかかえて、イルカの歯の治療に赴いた。

次号へ続く

 前 岡山大学病院 小児歯科 講師
 モンゴル健康科学大学(旧:モンゴル医科大学) 客員教授
 歯のふしぎ博物館 館長(博物館はWeb博物館です。)
 岡崎 好秀
 ⇒ http://leo.or.jp/Dr.okazaki/