2006年10月16日
前歯部の外傷で完全脱臼した場合、口の中で唾液に浸したり、牛乳や歯牙の保存液に漬け速やかに持参させ再植する。これらの液は、無菌的で、低温で、浸透圧が体液に近いほど予後は良いだろう。それでは脱臼した歯が、地面に落ちて砂だらけになっていればどうだろう?多量の水道水で洗うより、生理的食塩水で洗ったほうが、浸透圧の関係から良いだろう?
さて、ヒトの生理的食塩水の濃度は0.9%である。この濃度の食塩水を簡単に作る方法がある。それを紹介する前に、血液の浸透圧の話をしようと思う。
雑誌のビックコミックにゴルゴ13というマンガがある。ある話の前編では、ゴルゴ13が山岳地帯で出血多量となる瀕死の重傷を負う、そして最後のシーンで天然塩をくれるように言う。そして後編では、ゴルゴ13は無事任務を終えて立ち去る。きっとゴルゴ13は、天然塩を水で薄め生理的食塩水を作り輸液したのだろう。第2次大戦中にヨーロッパ戦線では、多くの兵士が負傷し輸血が間に合わなかった。そこで実際に、応急処置として海水を約1/4に薄め輸液した。海水の塩分濃度は4%、ヒトの血液は0.9%であるから、およそ1/4に希釈すれば良い。その他、海水にはミネラル・鉄分・カリウムなども含まれる。これも代用血の重要な成分となる。でもゴルゴ13の話には、落とし穴がある。海水のない山岳地帯で、どのようにして生理的食塩水の濃度を決めたかということだ。
さてある日本軍の元軍医に教えてもらった話。私は「戦争中、出血多量で瀕死の兵士を、一つまみの塩とバケツいっぱいの水で大勢助けた。」とのこと。その方法は、まず水を入れたバケツに塩を少量ずつ加える。その塩水を目に落とす・・・そしてしみなくなったら体液と同じ濃度である。なるほど!含蓄のある話である。
さてそれでは簡単な生理的食塩水の作り方。まず100円ショップで、計量スプーンを買いに行く。このスプーンは大・中・小の3つで100円だ。中のスプーンが5g用なのだ。次に、自動販売機でペットボトルに入った500mlの水を買う。これが150円。そして500mlの水に5gの天然塩を溶かすと1%濃度の食塩水になる計算だ。これは無菌であり、低温であり、しかも浸透圧が体液に近くなる。救急時に、知っておくと役に立つ裏技である。
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