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口唇閉鎖と血中酸素飽和濃度

2006年08月07日

私達は、通常口を閉じて呼吸している。
しかし激しい運動の後など、無意識に口を開けている。
これは、体が酸素を欲しているからだ。
しかし、口を開けている方が苦しい場合もあることに気がついた。

ある重度脳性まひ児。
バギーに座り、常時口が開いていた。
パルスオキシメーターを利用し、患児の指から血中酸素飽和濃度(%SP02)を測ってみた。
血中酸素飽和濃度は、血液中ヘモグロビンの何%が酸素を運搬しているかを示している。
患児が、口を開いている状態で測ったら88%であった。(図1・2)正常値は97%以上である。
 
 
図1

 
 
図2

 
 
この酸素濃度は、標高4000mの高山に匹敵する。
富士山より高い山の頂上で生活しているようなものである。
ためしに、自分の息を止めSP02を測った。
値は徐々に低下し、我慢できなくなったのが90%であった。
SP02が88%の状態は、いかに苦しい状態であるかがわかる。

次に、患児の口唇を介助し口を閉じさせた。
そうすると、驚くことにSP02が94%まで急上昇した。(図3・4)口を閉じた方が楽なことがわかった。
でもどうしてだろう?
 
 
図3

 
 
図4

 
 
ちょっとここで実験してみよう。
口を閉じると、舌尖は口蓋の前方に触れる。
次に口を開けると、下顎前歯に接する。(図5)
 
 
図5

 
 
それでは仰臥位ではどうだろう?
口を閉じれば舌尖は口蓋に接しているが、開ければ下顎前歯に触れなくなる。
その分、舌根が沈下し気道が狭くなる。
口を開き寝ることがイビキにつながり、睡眠時無呼吸症候群の引き金ともなる。
数年前の新幹線のオーバーラン事故は、これによる睡眠不足が原因だったことはあまりにも有名だ。(図6)
 
 
図6

 
 
ところで患児は、バギーの背にもたれかかるように座っていた。
舌の力がないために、口が開き舌根沈下を起こしているのだろう。
これが、SP02の低下の原因だった。
さて、この患児に摂食訓練を行っているうちにSP02は正常値となった。
食べるのが上手になると同時に、舌の機能が高まり沈下しなくなったのだろう。

同じような方々が日本中に数限りなくおられる。
長期間、病院のベットに寝かされ、口が開いている高齢者達だ。
この方々は何も言わないが、舌根が沈下し苦しい思いをされているかもしれない。(図7)
 
 
図7

 
 
だからこそ歯科医療従事者は、”心のアンテナ”を高くして、声なき声を聞く必要があるように思う。
しかもこれは、口腔ケアで改善される可能性があるのだ。