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スポーツと歯の食いしばり ~その1~

2006年03月20日

参考1

 
 
スポーツ時における歯の食いしばりについては、さまざまなことが言われてきた。歯の食いしばりというと現ソフトバンクの王監督を思い浮かべる。王選手の主治医の話。「王さんの歯の悪さは、職業病といっていいと思う。現役をやめる2年前、シーズン中歯が痛いと訴えてきた。左上の第1大臼歯が、竹を割ったように縦にスパッと割れている。めずらしい症例なので驚いたけれど、とにかく驚きました。あのころからですね。歯の傷みが目立ってきたのは・・・」これまでに失った歯は全部で5本。先ほどの第1大臼歯と右下第2大臼歯と第3大臼歯3本。残っている歯もすりきれて、歯の凸凹があまりない。(1988年10月10日 読売新聞“歯をくいしばる”より)大臼歯にかかる圧力は、100~150kgといわれているから、王選手は激しい咬耗のために歯が磨り減ったのだろう。確かに、重量挙げ・大相撲など瞬間的な食いしばり時にかかる圧力は想像を絶するものがある。

それでは、どうしてスポーツ時には歯を食いしばるのであろうか?
この点について考えてみたい。

さて咬反射という言葉がある。生後2-3ヶ月の乳児の口に指を入れると、咬むような動きが起こる。これは吸啜反射など原始反射の一つである。この反射は延髄レベルでのものであるが、上位中枢の成熟とともに抑制され消失する。そのため脳の発達とともに4ヶ月以降で消失する。もしこの反射が消えないと、顎は自分の意思でコントロールできない。思い通りに顎を動かせ食べることができないのだ。
 
 
参考2

 
しかし脳性まひなどの障害があると、上位中枢が発達しない。そのため消失が遅れる。歯磨き時に、歯ブラシを咬んでしまう。しかし、外すことはできない。さらに、重度では、自分の口唇まで咬み込んでしまう。どんなに痛いことだろう。咬反射が起こると同時に、全身の筋が緊張し硬くなる。
 
 
参考3

 
 
参考4

 
 
参考5

 
 
どうしてこんな反射が存在するのだろう?

さて、ライオンが獲物を襲うときを、考えてみよう。獲物を捕らえるためには、心拍数・呼吸数を増大させ臨戦態勢をとる。これは,交感神経が優位な状態である。そして獲物に咬みつく、体中の筋肉も極度に緊張していることだろう。ここで口が開くと獲物に逃げられてしまう。だから咬反射が存在すると考える。
 
 
参考6

 
 
これを当てはめれば、スポーツ時の歯の食いしばりが見えてくる。闘争本能むきだしの状態では、上位中枢の抑制が解けることだろう。だから咬反射に近い状態がかもし出される。これが、歯の食いしばりの一つの要因ではなかろうか?

しかし・・・・である。すべての運動において歯を食いしばっているわけではない。元巨人軍の江川投手は、歯が良い投手としても有名であったが、「ボクは歯を食いしばらない。口唇をかみしめるようにして投げていた」と話している。どうして歯を食いしばらないのだろうか?この続きは、次回に述べる。
 
 
参考1:王選手の主治医の歯科医によれば、「歯の悪さは、職業病といっていいと思う。」と述べている。
参考2:生後2・3ヶ月の乳児には,咬反射が認められる。
参考3:原始反射は延髄レベルでの反射であり、上位中枢の成熟とともに抑制され消失する。
参考4:咬反射がなくならない脳性まひ児では,歯ブラシや下口唇を咬み込んでしまう。(4歳児)
参考5:咬反射が起こると、全身の筋肉も極度に緊張する。
参考6:肉食動物は、口を開けると獲物に逃げられてしまう。そのために咬反射が存在するのではないか。