2005年02月21日
不潔な口腔が、誤嚥性肺炎の原因となることは、あまりにも有名だ。
その予防には、口腔ケアが不可欠である。
でも、よく考えていただきたい。
何故、口腔の細菌が肺炎を引き起こすのに、口腔は平気なのだろうか?
このことを進化の謎から考えてみる。
さて、細胞分裂は、精子が卵子に受精した瞬間から始まる。
細胞分裂が繰り返されると、多細胞となり生物は大型化する。
大型化すれば、栄養の供給が必要になる。
そこで、細胞の一部が陥没する。
これが原口。
進化の中では、口が最初に登場するのだ。
さて、口ができることで、栄養の摂取効率が増加する。
おかげで細胞は、ますます巨大化できる。
そうすると細胞は、さらに栄養の摂取効率を高めなければならない。
そこで口は、深くなり腸管が誕生する。
腸管の誕生により、飛躍的に摂取効率が高まり、生物は巨大化の道を歩み続ける。
しかし、ここには落とし穴が存在する。
無制限に摂取効率ばかりを求めると、病原性を持つ細菌の侵入も許すことになる。
これは生物の死滅につながる。
そこで、腸管の周囲には、最初の免疫細胞である原始マクロファージが誕生する。
これは白血球など、すべての免疫細胞のルーツである。
ヒトの免疫は、口から食べることがきっかけで作られた機能なのだ。
だから現実に、ヒトの全免疫細胞の約60%が腸管周囲に存在している。
口から食べることは、ヒトの進化にそった栄養摂取の方法であることがわかる。
それでは、IVH等の全静脈栄養の生活が続くと、ヒトの免疫機能はどうなるのであろうか?
そう!
腸管は紙のように薄くなり、免疫細胞が作られず、その機能は低下するのだ。
唾液に含まれるリゾチームやLGAなどの抗菌物質。
それに咽頭周囲にある扁桃腺が、ヒトの防御機能として働くのも同じ理屈である。
ところで肺は、水中でエラ呼吸する魚類から、陸上へ進出する時に腸管の一部が膨隆したものである。
進化の中では、食物摂取とは関係しないから感染に対しては弱いのだ。
いずれにせよ、ヒトの免疫は口から食べることにより進化してきた。
われわれの仕事は、進化の鍵となってきた口腔を守ることにあるのだ。
( 岡崎先生のホームペ-ジ http://leo.or.jp/Dr.okazaki/ )