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嫌がる子どもの歯磨き その5/部屋の掃除をするか?それとも汚さないようにするか?

2012年01月16日

1歳0ヶ月児の歯科健診をしていると気がつくことがある。
例えば、上下の4前歯が萌出しているパターンが最も多い。
臼歯が萠出していないから咬合も不安定である。
上顎前歯部のわずかな歯軸の問題が、将来の反対咬合につながることも見えてくる。

それにこの時期。
まるで歯が光っているように見える小児が多い。
歯垢がまったく付着していないので、このように見えるのだろう。
もちろん、歯磨きなどしていないのに・・・。

ところが1歳6カ月、2歳0カ月と時間が経つにつれ輝きが失われ、くすんだ様に見えてくる。
問診票に目を通すと、歯が光っているケースは、甘い味を知らないケースがほとんどだ。
どうやらショ糖の味を覚えると、くすんで来るようである。
“くすみ”は歯垢であり、ミュータンス菌の感染が原因ではなかろうか・・・。

さて、ミュータンス菌の平均感染年齢は2歳2か月であり、19ヶ月で25%、31ヶ月で75%の小児が感染するとされる。
そこでこの時期“感染の窓”と呼ばれる。(注1)
感染が成立するためには、菌が口腔内に侵入し歯牙の表面に定着する必要がある。
同時に、その定着のためにはショ糖の存在が不可欠である。
ミュータンス菌のエサであるショ糖が口腔内に多ければ、それだけ定着しやすいはずだ。
そんなことを考えて、幼稚園児を対象としてミュータンス菌存在の有無と生活習慣について調べてたことがある。(注2)

その結果、菌の存在する小児は
1)間食の不規則摂取
2)間食回数3回以上
3)甘味飲料を多く飲む
4)保護者の齲蝕5)間食後の歯磨きなど間食習慣にまつわる項目が上位を占めた。
(図1・2・3・4)予想通り、ミュータンス菌の感染には間食習慣が大きく影響していた。
(図1・2・3・4)
さて低年齢児の歯磨きは、泣いたり暴れたりとたいへんである。
ところで口腔を部屋に例えるなら、歯磨きは部屋の掃除に相当する。
ちらかった部屋を掃除することが歯磨きなのだ。
しかし部屋の掃除が困難であれば、汚さないことを考えればよい。
すなわち歯磨きが困難な時期は、甘味制限により口腔を汚さない努力をすれば、少しは楽になると思うがいかがだろう。

注1: Caufield,et al.:Initial acquisition of Mutans Streptcocci by infants:
Evidence for a Discrete Window of Infectivity, J. Dent. Res.,72:32-45,1993.

注2:ミュータンス菌の存在の有無は、Dentocult-SM Strip mutansを用いた。

岡崎好秀,他:ミュータンス連鎖球菌数と小児の生活習慣の関連について,小児歯誌,40:893-700,2002

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