2016年07月04日
1970年代は、“乳歯むし歯の洪水”と言われた時代があった。
哺乳瓶にジュース等を入れ夜間授乳する“哺乳瓶う蝕”が大きな原因の一つとなっていた。
低年齢で乳前歯にう蝕が初発すると、必ず口全体に広がり重症化する。
ミカン箱のミカンが一つ腐ると、周りも腐りはじめるのと同じである。
しかも、低年齢児の治療は、泣いて暴れて大騒ぎとなり歯科室は修羅場と化す。
哺乳瓶が問題視され、乳前歯のう蝕が減少したことが、現在の乳歯う蝕の激減につながった様に思う。
しかし一方、再び乳前歯のう蝕が増えている。
その背景に、スポーツドリンクが考えられる。
これは、哺乳瓶で与えていたケースで乳歯前歯のう蝕である。
下痢の時に医院で勧められて以来、常用していたそうだ。
しかし“体調が良くなれば必要ない”とは言われなかった。
保護者は、水の代わりになると思っていたのである。
そこで、スポーツドリンクで歯の脱灰実験を行ってみた。
小臼歯をワックスでカバーして、お茶とスポーツドリンクに浸けた。
1週間後にカバーを除去し、ダイアグノデントで脱灰の程度を調べた。
(注1:12以下は正常 13~24初期う蝕 要観察 25以上 要治療)
実験後、お茶では何ら変化なく、値は4であった。
一方、スポーツドリンクでは、酸により脱灰されていた。
しかも値は29を示していた。
(注2: 参考:コーラーpH2.2、乳酸飲料やサイダーpH3.4、スポーツドリンクpH3.5、リンゴジュース3.6、緑茶pH6.2、牛乳pH6.8)
哺乳瓶を使うと寝ている間は、唾液が出ないので朝まで溶け続ける。
この実験と同じことが、乳幼児の口で起こっているのだ。
しかも、一度甘い味を覚えてしまうと、お茶や水を飲まなくなる。
さらに、おいしいと感じると、また欲しがり保護者が止めさせない限り止めることはできない。
“三つ子の魂、百まで”の言葉があるように、乳幼児期に甘い味を教えると生涯その傾向が続く。
また、中学校等の部活でスポーツドリンクを勧められ、急にう蝕が多発するケースが多い。
幼児期から定期健診に通い、4歳・10歳でもきれいな口をしていた。
しかし中学校で野球部に入り、練習の合間に飲み続けてきた。
その結果、高校生でこの有様だ。
テレビの過剰な宣伝で体に良いと思い込み、喉が渇くと積極的に飲んでいたとのこと。
また熱中症予防のため、水筒にスポーツドリンクを入れ持たせる保護者もいる。
歯科医師の立場から、スポーツドリンクはご法度だ。
でも“飲ませないと脱水に…”と言われる。
でも、本当にそうだろうか?
前 岡山大学病院 小児歯科 講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
岡崎 好秀
⇒ http://leo.or.jp/Dr.okazaki/