2016年02月01日
ステファンカーブは、2段階に分けることができる。
第1段階は、ブドウ糖液の洗口直後に急激に歯垢pHが低下し、臨界脱灰pH以下になり歯の脱灰が始まる。
第2段階では、低下したpHは徐々に元の状態に戻る。
後者は、唾液緩衝能・唾液流出量などによるものだ。
さて唾液の因子は、う蝕予防にどの程度関与するのだろう?
まず臼歯部では、裂溝の形態や深さが大きく影響する。
それでは、前歯部ではどうだろう?
そこで厚生労働省の歯科疾患実態調査報告を調べた。
歯の寿命は、下顎前歯の66.3歳に対し上顎前歯は61.8歳であった。
下顎前歯は、約5年寿命が長いのである。(平成17年度)
さらに5歳児のう蝕罹患歯率を比べると、下顎乳中切歯のう蝕罹患歯率は0に対し、上顎では約13%であった。(平成23年度)
また永久歯列でも下顎前歯は、上顎前歯より10~14歳で約16倍、35~44歳で約27倍う蝕が少なかった。(平成23年度)
上・下顎の前歯部が形態的に類似していることからも、その差は唾液の防御作用と考えられる。
これは哺乳瓶う蝕が、上顎乳前歯に多発することからも明白だ。
次に上・下顎前歯部のプラークpHの差について論文を検索した。
いささか古い研究ではあるが、ステファンは興味深い研究を行っている。
彼は、う蝕の程度により4群に分け、各群の上・下顎永久前歯唇側のプラークpHの変動を調べた。
上顎前歯部において重度う蝕群は、う蝕なし群より初期および最低pHが低かった。
この傾向は下顎前歯でも、同様であった。
そこで両者の図を合成し、上・下顎前歯を比べてみた。
その結果、う蝕の状態に関わらず上顎では初期pH・最低pHともに低かった。
この研究からもう蝕罹患状態は、唾液が大きく関与していることがわかる。
続く
前 岡山大学病院 小児歯科 講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
岡崎 好秀
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