2015年12月21日
神経系には、自分の意志で体をコントロールする体性神経系と、コントロールできない自律神経系とがある。
さらに自律神経は、交感神経と副交感神経があり、
内臓の動きや呼吸数、血液循環などを調整している。
なかでも交感神経は、“闘争神経”とも呼ばれ、
獲物を捕るときや格闘するときに優位になる。
そこで体を緊張させるため血管が収縮し、血圧や脈拍数が増加する。
一方副交感神経は、食事などリラックス時に優位となり、
内臓の蠕動運動や消化液の分泌を促す。
このように両者は、正反対の作用を持っている。
しかし、ふしぎなことに唾液だけは、どちらの神経も分泌を促す。
交感神経が優位なときは、ネバネバした粘液性の唾液、
副交感神経ではサラサラ唾液になる。
どうして二つの神経は、性状の違う唾液分泌を促すのだろう?
さて、最近の免疫学では、自立神経系の調節により
生体防御作用がコントロールされると考えられている。
交感神経が優位のときには顆粒球(好中球・好塩基球・好酸球)が増え、
リンパ球(T細胞・B細胞)が減少する。
一方、副交感神経が優位のときは、
リンパ球が増え、顆粒球(主として好中球)が減少する。
ちなみに、顆粒球は全白血球の60%を占め、
リンパ球が35%、マクロファージ(単球)5%と続く。
顆粒球は、“貪食作用”により比較的大きい細菌を処理する。
一方リンパ球は、抗体を利用した反応で微小抗原(ウイルス)から体を守っている。
ところで、ヒトが獲物を捕りに行く時は、交感神経が優位になる。
この時、外傷の可能性が高く、細菌感染を起こしやすくなるため、
皮膚の表面に顆粒球を増加させておく必要がある。
またスポーツを見て興奮している時は“手に汗を握る”という言葉があるように、
交感神経優位の状態では発汗が促される。
これは汗による“滑り止めの作用”や
リゾチームなどによる“生体防御作用”である。
一方、食事時は、消化を促進するために副交感神経が優位になる。
この時、体は腸管からの異種タンパク(抗原)やウイルスの侵入を阻止するため、
リンパ球を増加させる。
このように生体防御作用には、交感神経と副交感神経の両者とも関与するが、
片方だけを考えると無理が生じ両者のバランスが崩れる。
例えば、働き過ぎやストレスで交感神経が優位な状態が続くと、
白血球が過剰となり自らの細胞を傷つけ胃潰瘍やガンなどの病気になりやすい。
逆に運動不足などで副交感神経が優位になると、
リンパ球が過剰になりアレルギーを起こしやすくなる。
自律神経のバランスは、唾液にも作用する。
交感神経が優位な時は、生体防御のためにリゾチームなどを含んだ粘液性の唾液が分泌される。
同時に、副交感神経による漿液性唾液は抑制され口が渇く。
逆に、副交感神経優位の時には、唾液アミラーゼによる消化の促進や、
食物をスムーズに胃腸に運ぶためサラサラの漿液性唾液が分泌される。
かくして交感神経・副交感神経の影響を受け性状の違う唾液が
分泌されるのである。
前 岡山大学病院 小児歯科 講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
岡崎 好秀
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