MAIL MAGAZINE メールマガジン

謎解き唾液学 【6】唾液の大きな2つの役割

2015年12月07日

唾液には、ヌルヌルの粘液性とサラサラした漿液性がある。

しかし、どうして異なった性状の唾液があるのだろう?

(図1)
スライド1

さて唾液には、さまざまな作用があるが、大きく二つに分けることができる。

1:粘膜の保護作用

2:食物をスムーズに胃へ送り込む作用

前者の保護作用が、粘液性唾液の主たる役割である。

(図2)
スライド2

粘液物質は、主に多糖体の“ムチン”でサカナのヌルヌル物質の成分(ムチン型糖タンパク質)でもある。

これは粘膜を潤し胃壁の保護や修復する作用を持つ。

動物の皮膚もこれによって守られ、サカナのヌルヌルを取ると寄生虫が侵入したりカビが生えやすくなる。

(図3)
スライド3

また、食物の骨が刺さったり、硬い繊維質ものは食道などに細かい傷を作る。

リゾチームなどの抗菌物質や、傷口を早く治す上皮成長促進因子もこの一つである。

体内における保護作用として粘液性唾液があることがわかる。

また、ヒトの皮膚においても加齢によりムチンが減り、肌の弾力性が失われる。

言い換えれば肌の老化は、ムチンの減少によって起こるのだ。

そこで化粧水には、ムチンの類似物質であるヒアルロン酸が含まれ肌をスベスベにする。

また目の表面が乾燥するドライアイもムチンの減少によるものである。

さて一方、後者のスムーズな胃への送り込みが、漿液性唾液の役割である。

(図4)
スライド4

さしずめ食物のウオータースライダーである。

ところで、サカナは多量の水分により嚥下をスムーズに行うことができる。

そのため唾液腺を発達させる必要がない。

そこで魚類や両生類は、粘液性の口唇腺や舌腺など小唾液腺が主となっている。

しかし乾燥した陸上では、嚥下のために多量の唾液を分泌させる必要がある。

爬虫類は、食物が多様化し漿液腺も見られるが、大唾液腺が発達するのは哺乳類以降である。

ちなみに唾液腺は、動物の食性に合わせて変化する。

例えば、海鳥はヌルヌルしたサカナを食べるので発達が悪い。

しかし、スズメなど乾燥したエサ(粟)を食べる鳥は唾液腺が必要である。

ところで、唾液アミラーゼは漿液性唾液にのみ含まれる。

ご飯にヨードを一滴落とすと青色になるが、噛んで唾液と混ざると麦芽糖になり色が変わらない。 

これは唾液アミラーゼによる反応である。

一方、肉食動物には、タンパク質が多い肉を食べるため唾液アミラーゼが分泌されない。

しかし、植物食だから唾液アミラーゼが分泌されるわけでもない。

サルは、木の種子や実などのでんぷんを食べるので分泌される。

しかし、ウシなど雑草を食べる動物では分泌されない。

セルロースは、ウシの腸内細菌により分解されるためである。

(図5)
スライド5

以上のように、粘液性と漿液性唾液の作用は、大きく異なることがわかる。

前 岡山大学病院 小児歯科 講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
岡崎 好秀
⇒ http://leo.or.jp/Dr.okazaki/

※2018年10月19日修正
粘液物質は、主に多糖体の“ムチン”で山芋やサカナのヌルヌル物質の成分でもある。

粘液物質は、主に多糖体の“ムチン”でサカナのヌルヌル物質の成分(ムチン型糖タンパク質)でもある。
 山芋のヌルヌル物質の成分は、(ムチン型糖タンパク質)ではありませんので、誤解が生じかねないものであったため、“山芋や”を削除しました。
 ヌルヌル物質の成分(ムチン型糖タンパク質)と変更しました。