2015年11月02日
リゾチームを発見したのは、イギリスの細菌学者 アレキサンダー・フレミング。
彼は、ペニシリンの発見者として1945年ノーベル医学・生理学賞を受賞したことでも有名だ。
黄色ブドウ球菌の培養中、シャーレーの蓋をしめ忘れ放置していた。
青カビが偶然に生え、その周囲に細菌の阻止帯ができていた。
これがペニシリンの発見のきっかけとなった。
その6年前、フレミングは“別の大発見”をしていた。
ある日、風邪で出た鼻汁を培養中のブドウ球菌に植えてみた。
すると、そこにも阻止帯ができていたのだ。
そこで、その菌を分離培養し混濁した試験管に鼻汁を入れたところ、
数分で溶菌現象が起こった。
彼は、ヒトの分泌物には殺菌作用があるのではないかと考えた。
常にヒトは、空気や食物に含まれる無数の細菌と接し、
それらは体内に入り込もうとする。
もし、なんらかの防御作用がなければ、ヒトは遠い昔に滅んでいたに違いない。
血液中の白血球やリンパ球は防御作用の一つである。
しかし目や鼻など血液循環が乏しい場所ではどうだろう?
きっと自然の防護作用が備わっているに違いない。
そこで他の部位を調べ、唾液・毛髪・皮膚にも存在することを確認した。
さらには、草花や茎、木の葉など自然界のあらゆるものに含まれていた。
中でも多かったのは、卵の卵白で涙の200倍もの数値を示した。
でも、どうして卵白に多く含まれているのだろう?
これも卵の防御作用である。
卵は、表面に約1万もの穴が開いており、ここを通じて呼吸をしている。
しかしそれは、同時に細菌の侵入口でもある。
そこで、それを阻止するために作られるのである。
人間は、これを利用して卵白からリゾチームを精製し、薬として利用した。
自然界には、体を守るさまざまな仕組みが存在することがわかる。
ところで筆者は、かねがね不思議に思っていたことがある。
はたして偶然だけで、これだけの大発見ができるものだろうか?
そこには何か、フレミングの哲学があったに違いない。
そこで彼に関する書物を読み漁った。
読み進める中で、やはり偶然とは言えない背景に気がついた。
彼が活躍した時代は、第1次世界大戦の真っただ中である。
ノーベルによるダイナマイトの発明は、それまでの戦争の概念を大きく変えた。
病院では、連日爆発により骨を砕かれ、筋肉を引き裂かれた兵士が押し寄せた。
壊れた組織は、細菌の温床となるばかりでなく、食細胞の到達を妨げる。
外科医の処置は、壊死組織を取り除き、
石炭酸やオキシフルで傷口を消毒することであった。
しかし、先ほどまで元気であった兵士が、短時間の間に次々と亡くなっていく。
医学の限界を感じたフレミングは、
体内から病原菌を殺す方法を模索していたのだ。
同時に、彼はきめ細やかな研究者であった。
他の研究者は、実験後のシャーレーなどをすぐに処分する。
しかし彼は、培養液を何週間も手元に留め、
最後まで思いがけない現象が行っていないかと注意深く眺めていた。
この姿勢が大発見につながった。
彼は、著名な細菌学者である前に臨床家であったのだ。
いやいや、立派な臨床家であったからこそ、
ノーベル賞を手にすることができたのである。
前 岡山大学病院 小児歯科 講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
岡崎 好秀
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