2015年01月15日
“早い”・ “まずい”・“冷たい”と言われた“病院食三悪”。
そこに大きな風穴をあけたのは,長野県にある篠ノ井総合病院であった。
新村 明院長の下に「患者本位の病院改革」をめざした。
その取り組みが有名になったのは,1985年の朝日新聞の記事であった。
(図1)
この記事をきっかけに全国各地から病院関係者が見学に押しかけた。
当初、病院関係者は、「夕食を午後4時でなく6時にするなんて嘘だろう。」
・「低い医療費の中でできるわけがない」などと否定的な意見が大半であった。
しかし全国から視察者が押しかけ、感動して帰る事実は否定のしようがない。
この取り組みは、すぐに全国に広がった。
同時に世間は、午後4時に配膳する病院を「時代遅れ」・「レベルが低い」と見るようになった。
それでは“病院食三悪”をどのようにして改善したのだろう?
まず“早い”の問題。
当時、病院の夕食が早かったのは、患者ではなく、職員の都合に合わせたものであった。
夕食が遅くなると、食器洗いや消毒も遅くなり時間外労働が問題となる。
午後5時なら日勤と準夜勤の看護師がいて人手が助かるなどの理由だ。
そこで看護師の勤務時間の調整や、食器の数を増やし翌日に消毒することで解決した。
次に“まずい”の問題。
給食責任者の栄養課長は、通常栄養士であるが調理師にした。
しかもその調理師、東京の一流料亭から引き抜いた。
調理師なら、まず食べていただくことを優先する。
料理の基本は、見た目が美しく、おいしそうで食欲がそそられることだ。
もちろん栄養価も重要だ。
栄養士は、最初の2年は調理をみっちり勉強したうえで、本採用になり栄養指導に加わる。
栄養学的に充足されていても食べなければ意味がない。
このことを理解して欲しいがためだ。
さらに一般食のメニューを増やし、好みに合った食事を提供する。
食器は合成樹脂ではなく陶器を使う。
最後に“冷たい”の問題。
配膳に時間がかかると、温かい料理が冷めてしまう。
そこでベルトコンベアを利用し流れ作業方式や、手間のかかる盛り付けは受付など事務系の職員が応援に加わる。
配膳からベットまで30分以上かかっていたが10分以内に短縮されたと言う。
この病院では、これらの努力で残飯量が激減したと言う。
実は当時、筆者も見学に押しかけた一人であった。
その時の院長の言葉。
「よく食べていただけるので、患者さんは早く退院される。だからベットの稼働率も良くなり、同時にうわさが広がり多くの患者さんが来院されるようになりました。」
おいしい食事の提供は、病院経営も安定させるのである。
現在、病院食が良くなったのもこのような背景があったのだ。
最後に、苦言を呈しておきたい。
現在でも消化器などの外科手術を機に、義歯を外した状態で放置されている病院が多いと聞く。
いくらおいしいそうな食事を提供しても、噛める歯がなければ、これらの努力も徒労に終わるのである。
続く
参考文献:
1. 著者:新村明・藤田真一
書籍タイトル:患者本位の病院改革 朝日文庫 1985年
2. 著者:藤田真一
書籍タイトル:患者本位のこんな病院 朝日ブックレット66 1986年
前 岡山大学病院 小児歯科 講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
岡崎 好秀
⇒ http://leo.or.jp/Dr.okazaki/