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モンゴルにおける小児う蝕と歯学教育 その【1】

2014年04月30日

筆者が最初にモンゴルを訪れたのは1990年代の始めである。

当初、アメリカの歯科医であるプライスの「食生活と身体の退化」を読んだことがきっかけであった。

彼は、1930年代に世界中の未開の地を訪れ、食生活の変化と口腔疾患との関係について調査した。

その結果、伝統的な食物から精製された食物へ変わることで、う蝕だけでなく歯周病や不正咬合も増えたことを豊富な口腔内写真を基に実証していた。
(図1)
図1

 

出典元:NPO法人恒志会「食生活と身体の退化」より

http://koushikai-jp.org/shoseki4.html

これが現実かどうかを知りたいため、モンゴルへ遊牧民の口を見に行ったのだ。

遊牧民は、夏は“白い食物”とよばれる乳製品を、冬は“赤い食物”である肉を中心とした食生活を営んでいた。

硬い肉を引きちぎり噛んでいた彼らは、大きな歯列ときれいな歯をしていた。

もちろん歯ブラシなど使ったことがないと言う。

まさに歯は、厳しい自然を生き抜くための武器であったのだ。

口腔内写真を撮らせて欲しいと言うと、自慢げにたくましい歯を見せてくれた。
(図2)
図2

しかし、この20年間に食生活は大きく変化した。

う蝕や歯周病の増加のために、歯を見せるのを嫌がる遊牧民が増えた。

なかでも首都のウランバートルの子ども達の重症う蝕が増加した。

菓子類が簡単に手に入るようになったためである。

しかも歯科材料が高価なことに加え、健康保険制度もない。

これは小児歯科医としては、見過ごすわけにはいかぬ。

そこで大学で歯科医師を対象として長年講義を行ってきた。

しかしう蝕は、増加するばかりである。

そもそも歯科医師対象では、う蝕治療の話題になりがちになる。

そこで、将来を担う学生を対象とした歯学教育で講義を行うことにした。

まず、モンゴルの子ども達の現状を知らせることが先決である。

そこで昨年は、市内の幼稚園で歯科検診と口腔内写真撮影を行った。
(図3)
図3

歯科検診の結果、モンゴル4歳児の齲蝕罹患者率(dmf者率)は89.6%、1人平均dmf歯は9.25歯である。

ちなみに我が国の歯科疾患実態調査(平成23年度)と比較するとdmf歯数は約6倍も多い、しかもほとんどが未処置である。
(モンゴル4歳児1人平均d歯数8.17、m歯数0.06、f歯数0.77)
(図4)
図4

小児(48名)の口腔内写真一覧(PDFファイル)はこちら

そして今月、これらの写真を一例ずつ見せ、子ども達の現状について話した。

学生から驚きの声が上がった。

ほとんどは、子ども達の口腔を見たのは初めてであると言う。

う蝕の現状を数字で表すではなく、実際に口腔内写真で現すと訴える力が違う。

この講義に啓発され、優秀な歯科医師の誕生を願うばかりである。

次の時代を担う歯科医師の育成こそ、歯学教育に求められるものである。

続く

前 岡山大学病院 小児歯科 講師
モンゴル健康科学大学(旧:モンゴル医科大学) 客員教授
歯のふしぎ博物館 館長(Web博物館)
岡崎 好秀
⇒ http://leo.or.jp/Dr.okazaki/