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ダーウイン医学その2 淡水魚と海水魚の浸透圧

2009年02月16日

「個体発生は、系統発生を繰り返す」と言う有名な言葉がある。

「“受精から誕生までの間”には、“原始生命体から魚類、両生類、爬虫類を経てヒトとなる”その38億年の歴史が刻まれている」言う考え方だ。

進化の観点からヒトの体を考えると、形態や機能の本質を理解でき、臨床上の思わぬヒントにめぐり合うことがある。

例えば、ヒトの腎臓には糸球体と尿細管がある。
腎臓に送られた血液は、糸球体でいったん濾過されるが、その99%が尿細管で再吸収される。

そもそもヒトの体は、効率よくできているはずである。
糸球体では最初から1%だけを濾過すれば良いではないか・・。
なのに、このような複雑なシステムなのか?
実に、不思議である。
そこで進化から見た腎機能について考えてみる。

さて、九州のある水族館では、淡水魚と海水魚を同じ水槽で飼育している。
普通に考えれば、生きていけないはずである。

 

(図1)
淡水魚と海水魚

 

海水の塩分濃度は約3.5%。
従って淡水魚を海水に入れれば、浸透圧の関係で体内の水分が奪われる。
ちょうどナメクジに塩をかけるようなものだ。
浸透圧の差により、水分が体から奪われ小さく縮む。
脱水状態になるのだ。
逆に、海水魚を淡水に入れたら、水ぶくれになる。
ちょうど、風呂に長時間入ると手の皮がふやけるのと同じである。

・・・・なのに、両者は元気に泳いでいる。
どのようにして同じ水槽で飼っているのだろうか?
淡水魚には水槽内の塩分濃度を少しずつ上げ、海水魚には塩分濃度を下げ、徐
々にサカナを慣らすのだろうか?
それとも、水槽内を淡水と海水の中間の塩分濃度に調整しているのだろうか?
はたまた、まったく別の観点から塩分濃度を調整しているのか?
さまざまな疑問が頭をよぎる。

この正解。
水槽内を“ある一定”の塩分濃度に保っているのだ。
実は淡水魚と海水魚の体液の浸透圧は、ほぼ同じである。
ちなみに、ヒトの塩分濃度は0.9%。淡水魚と海水魚の体液は0.6%。
だから、サカナの生理的食塩水に等しい水槽なら飼えることになる。

さて進化の過程で魚類は、直接地上に上がり両生類になったのではなく、いったん海水魚が淡水魚となった後に上陸した。
すなわち上陸前には、まず淡水で生き残る体のシステムを身につける必要があったのだ。
ヒトの腎臓は、このような経過で発達して来たのである。

 

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