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ちょっといい話 一カルテの中の宝物一

2008年09月16日

元岡山国立病院院長の小児科医故山内逸郎先生(*)と言えば、母乳育児で有名だ。
人工栄養が最盛期の頃、免疫学や母子相互作用の観点から母乳を見直し、全国的な運動に発展させた先生である。
一方、川崎医療福祉大学名誉学長・心身障害者施設の旭川荘名誉理事長の江草安彦先生は、わが国でもトップレベルの小児科医である。
これは江草先生に伺った話である。

時は昭和20年代。
当時、乳幼児の死亡原因の第1位が感染症であった。
そのような背景から、岡山大学医学部小児科への入局者は毎年30名もいたらしい。
両先生が小児科の医局員時代の話。
お二人で、どちらがカルテをたくさん書くか、競い合いをした。
もちろんすべての患者に…である。
珍しい病気に対して、精細に問診を行い、臨床所見を書き、論文から治療法を探し出し、カルテをたくさん書くことは、そんなに難しくない。
それでは、風邪や腹痛ではどうだろう?
単純な病気ほどカルテに書く内容は減り、たくさんの量を書くのは難しい。
当たり前なことでも初心にかえり精細に問診を行い、臨床所見をカルテに書くためにはかなりの労力が必要となる。
しかし…である。
ていねいにカルテを書くなかに、宝物があったのだ。
それまで当たり前の中に、臨床のヒントがあり、新しい診断方法や処置方針の研究につながる。
両先生が、日本のトップレベルの小児科医として名をなしたのは、地道な努力の結果だったのである。
我々も日常診療の中で、たくさんの宝物を見逃しているのではなかろうか。

(*:著書 新生児・未熟児・子育て小児科医の助言 岩波新書)

 

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