2012年11月22日
前回の馬の前歯に引き続き、今回は臼歯の話。
馬は、過酷な条件で育つ硬い草を食べる。
セルロースの多い草を消化するには、1日16時間食べ続けなければ体を維持できない。
そのため臼歯は、大きくて咬合面が広いだけではない。
咀嚼効率を高めるために、小臼歯も大臼歯化させている。
さらに、著しい咬耗が続くと歯冠がなくなってしまう。
そのため歯冠が長い。
これを高冠歯や長冠歯と呼ぶ。
(図1)
歯の萌出が完了しても、エナメル質の形成が続くのだ。
同じ草食動物でも、馬と牛では臼歯の形も違う。
馬は牛と比べても、歯が一回り大きく頑丈だ。
牛は反芻するため、食べる時間が馬の約半分。
(図2)
この差が、臼歯に現われる。
馬の頭蓋骨を見てみよう。
歯が極めて大きいことがよくわかる。
馬ヅラは、歯が大きいことが原因だったのだ。
(図3)
次に臼歯の咬合面。
硬い草を噛むため、ヒトとは異なった形をしている。
例えば、ヒトの歯は内側に象牙質、外側にエナメル質がある。
馬では、さらにエナメル質の周りをセメント質が取り囲む。
同時にエナメル質の間の空隙もセメント質で満たされる。
(図4)
どうして、かくも複雑なのか?
その理由。
ヒトの大臼歯でも咬耗が進み平坦になれば、咀嚼能率が低下する。
これでは、草をすり潰すことができない。
そこで、馬の神様は考えた。
エナメル質と象牙質やセメント質では硬さが違う。
咬耗が進む場所と遅れる場所を作ればよい。
この差が適度な凸凹を作り、噛める歯が誕生したのだ。
(図5)
さて自然界の馬は、歯が1年に2~3ミリ咬耗が進むという。
平均的に咬耗が進めば問題ない。
しかし競走馬は、長時間噛み続ける環境にない。
しかもレースに勝つためには、濃厚飼料を与えねばならぬ。
当然、顎運動も自然界の馬とは異なる。
顎は側方運動をするため、上顎臼歯部の頬側や下顎臼歯部の舌側に鋭縁ができる。
頬や舌に傷を作れば、食欲に影響する。
これではレースに勝つことができない。
そこで競走馬は、定期的に歯のチェックを行っている。
馬用の大きなやすりで尖った部分を削るのだ。
(図6)
競走馬も、歯の手入れをすることで実力が発揮できるのである。
>>岡崎先生のホームペ-ジ
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