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教養教育 その2/内積と外積

2012年10月26日

大学に入学した頃、教養科目より早く専門的な知識を身につけたいと思っていた。

あなたは、どうであったろうか?

もちろん、教養教育を軽視していたわけではない。

しかし当時、教養の持つ意味がよくわからなかった。

さて専門家は、その分野に関しては非常に詳しい。

しかしそれを取り巻く事象を、総合的に見渡す能力は十分とは言い難い。

例えば、歯科医院の経営には、技術面だけでなく、税金や法律あるいは人事管理の知識が不可欠である。

また、患者とのコミュニケーション能力も必要だ。

さらに今後、社会はどう変化していくのか?それに対し歯科医師はどう対応すべきなのか?・・・などの見通しを立てる必要もある。

このような、社会で役立つ力を育むのが教養教育である。

専門の分化が著しい現在、これはすべての領域で言えることだろう。

そう言えば、数学で内積と外積という言葉があった。

内積とはベクトルが同方向にどれだけ向かうかであり、外積とはベクトルがどれだけ異なった方向を向いているかを指す。

さしずめ前者は専門を深めること、後者は人間の幅を広げることと言える。

大学教育において、教養と専門教育は車の両輪であることがわかる。

大学で教養科目を担当した背景には、このような思いがあった。

主題は、“発信力を育む”ものであるが、同時に他学部の友人を作ることも目標の一つとしている。

学生時代に出会った友人は、損得のない関係であり、生涯の友となることが多い。

社会に出て困ったことを、気軽に相談できる友人がいればありがたい。

多くのネットワークがあれば、情報を簡単に手に入れることもできるだろう。

これは、将来の大きな財産となるに違いない。

さまざまな分野の友人を持つことは、さまざまな分野の頭を持つということでもある。

もちろん自分で調べ試行錯誤を繰り返し経験知から判断することも大切だ。

しかし一人で勉強しても、世間の広さから考えれば微々たるものである。

さて岡山大学は11の学部を持つ・・・だとすれば11学部の友人ができる仕掛けを作ろうと思った。

そこで思いついたのが、グループワーク形式である。

少人数制であらかじめ教室の机を並び替え、6~8名程度のグループを作る。

そして毎回、他の学部や異なったメンバーとグループを組むように配慮する。

最初の1分は自己紹介から始める。

普通のものでは面白くないので毎回テーマを変える。

例えば、“学部の自慢話”、“これまで最も恥ずかしかった体験”など・・、徐々に自己開示する内容にする。

さらに、そのグループでの討論によって授業を進める。

もちろんテーマも毎回変える。

例えば“これまで受けた最も面白かった授業の特徴”について課題を出す。

当然、さまざまな意見が出る。

それを発表しあう中で、学生が理想の授業を目指す構成員となる。

この過程で発信力を磨きながら、他分野の学生と知り合うことができる。

これを半年間繰り返せば、いつの間にか寡黙な学生がいなくなる。

まさに、参加型の授業である。

さて、この授業では歯の話題を控えている。

得意分野の話をせずに、学生を半年間引き込ませるのはたいへんだ。

実は、この授業・・・。

学生だけでなく、自身の発信力を鍛える授業でもあるのだ。

>>岡崎先生のホームペ-ジ
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